- ナノ -


心一つ取り戻せやしない

「2組の竹谷くんだよね?」

「あぁそうだよ」

「これ一体どういう状況?」

「名前を抱きしめてる」

「いやそれが意味解んないんだけど」

「やっと捕まえた」

「っていうかここ竹谷くんち?」

「好きだよ名前」

「何で引っ張ってきたの?」

「愛してるよ名前」

「私に何か御用だった?」

「ずっとここにいろよ」

「会話のキャッチボールは?」


ちょっと帰りにコンビニでも寄っていこうかと寄り道をしたところ、

突然「名前、」と聞き覚えのない声が私の身体を呼び止めた。

甘ったるい歌詞の曲が流れるイヤホンをはずしてそっちをみると

確か彼は隣のクラスの竹谷八左ヱ門くんがいた。

随分古風な名前だなぁと思ったことが一度ある程度で、

彼と私には何も繋がりなんてなかったはずだ。

突然名前呼びで聞き間違いかと思ったのだが

彼は駆け寄って私の手首を掴み、

凄いスピードで走り始めた。


これはどういう状況なんだろうと脳内整理をしていると

連れてこられたのはとある一件のおうち。うわおっきい。


あれよあれよというまにドアに手をかけ中に入り

靴を脱がされ広い部屋につれてこられて

ガチャッと鍵を閉められたような音が鳴り

私はベッドの上に放り投げられた。


んでいま抱きしめられている状態。今ここ。


貞操の危機はまったく感じてません。

彼は犬のように私にすりすりして抱きしめているだけ。

髪の毛くすぐったいんですけど。

これじゃまるで大型犬にのしかかられているような感じだ。


名前は危機感というものが足りない

とよく友人に言われるが自分でも全く持ってその通りだと思う。


何故絡んだこともない男子生徒に連れてこられて

何一つとしてパニックを起こさないのか。


原因の一つとして、頭の回転が遅いということがあげられる。

むしろこういう意味の解んない事されたのはじめてだから

どう対処していいのか解らない。どうしよう。



ちらりと部屋の中を見ると中には虫かご?とか水槽とか

生き物があっちこっちで飼われていた。


そして机の上にあるコルクボードに

小さなメモが張られていた。

其処にはこう書かれていた。




鉢屋三郎

不破雷蔵

久々知兵助

尾浜勘右衛門

名字名前





……?


なんであのイケメン集団の中に私の名前が入っているんだ?


そして何故私だけ線が書いてない?

っていうかあれなんだ?



「竹谷くん、あれ何?」

「思い出したか?」

「は?」

「思い出してくれたか?」

「何を?」

「俺とお前いつも一緒にいたじゃねぇか」

「え?」


さらに強く抱きしめられて、ぐぇっと変な声が出る。


竹谷くんと?いつも?一緒にいた?

何年ぐらい前の話だ?物心つく前か?友達だったっけ?


「ずっと一緒にいようって言ってくれたじゃねぇか」

「私が?」

「なのに、お前ときたら、忍務に失敗して、勝手に、死んで」

「…お?」


にんむ?なんの?私が?死んだ?


「…もしかして、前世、の話とかしてる?」

「!思い出したか!?」

「い、いやいやいや」


た、竹谷くんて電波さんだったの?



「まだ思い出さねぇか。仕方ねぇよな。大丈夫だ。三郎と勘ちゃんは記憶あったけど、雷蔵と兵助は覚えてなかった。でも結構前に急に思い出したんだ。俺らと昔みたいに遊んでたら思い出した。お前もきっとすぐに思い出す。」

「な、何を?」

「名前は学校でいっつも誰かと一緒にいるな。だから俺らは話かけられなかった。今名前が幸せならそれを邪魔するわけにはいかねぇしな。名前が俺らの中で一番最初に死んだんだ。だったら邪魔しねぇよ」

「竹谷、くん?」

「だけどな、この間勘ちゃんが"いい加減に名前を俺らの輪に戻したい"って泣いてたんだ。知らないだろ?」

「勘……尾浜くんの、こと?」

「やっぱりあいつらも我慢してたんだ。さよならもありがとうも言えずに名前は勝手に死んだ。勝手に俺らの前からいなくなった。なのに今度は生きてるのに俺らの元に帰ってきてくれねぇ。これはどういうことだ?」

「ちょ、な」

「俺らずっと一緒に生き抜くって言ったのに一番最初に死んだのは名前だ。裏切ったんだ。学園にいたころから名前は好き勝手行動して俺らを困らせてた。でも目を瞑ってたよ。名前が楽しそうならそれでいいって」

「あ、た、たけ」

「でもやっぱりお前は最後の最後まで俺らを乱した。離れるのがつらいって言った兵助の言葉に三郎が提案して、学園のあの年代でフリーの傭兵集団を結成したのに、上手くいっていたのに、真っ先に、名前が死んだ。」

「ちょっと…何これ!」


ポロポロと涙をこぼしながら私の制服に手をかけネクタイを解き

竹谷くんは何処から取り出したのか私の首に、くくく首輪をはめやがった!!!


「やっぱりお前にはこれをつけるべきだったな。雷蔵が言ってたんだ。そうでもしとかねぇとお前はきっとどっかに行っちまうって。やっぱりつけるべきだったな。だから今世はつける。勝手にどっかいかねぇように」

「竹谷くんなにこれはずしてよ!」

「大丈夫だって。俺また前と同じ生物委員会じゃん。生き物を飼ったら最期まで面倒を見るのが人としてのつとめだって、今回も肝に銘じてるよ」

「さ、最後!?」

「あぁ名前名前名前名前名前名前やっと戻ってきてくれたよかった今度孫兵にも紹介する一平も虎若も孫次郎も覚えてるお前のこと大好きだって言ってたあと兵助と勘ちゃんと雷蔵と三郎にも合わせねぇとなあいつらは呼べばすぐ来てくれるだろ」

「な、なんなの?」

「ちょっとまってろ今電話してくる。すぐ戻ってくるから待ってろよ」



バタン


全く会話のキャッチボールが出来ぬまま、

私の頭を一撫でして、竹谷くんは部屋を出て行った。


残された私は取り出したケータイに反射してる私の首を見た。

青い、首輪。…"忍術学園五年名字名前"


忍術、学園?な、なにそれ?


ベッドから起き上がり、深呼吸をすると脳が冷静になってきた。

ドアに手をかける。なるほど。外から鍵がかけられている。

これ監禁ですか。ツラァ。


さてどうしようかな。

バッグの中をあけてもどこでも移動できるドアは出てこないし。

とりあえず首輪を隠すためのマフラーを巻く。あったけぇ。











んー、



























あ、窓開いてるじゃん。

こっから出られるじゃん。



































お邪魔しましたー。


















心一つ取り戻せやしない

……名前…?

…あれ!?!?名前!?!?何処いった!?!?!?




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「あ、七松先輩。丁度いいところに」

「よう名前。どうした?私に用事か?」

「これ取ってもらえません?」

「おう!任せとけ!」


ブチィッ!


「取れたぞ!」

「わーさすがですね。ありがとうございました」

「おう!気にするな!それより今暇か?飯行かんか?」

「わお行きたいです行きたいです」


突然の誘いに乗るレベルには
竹谷はどうでもいいと思われている。竹谷乙。

ちなみに彼女は体育委員会です。


第5位 竹左ヱ門でした。
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