「おっと」
「おう、名前か」

伊作の部屋の扉に手をかけようとしたとき、その扉はスッと勝手に開かれた。
なんだと思って顔を上げると、工具箱を抱えた留三郎がたったいま部屋から出て行こうとしていた。


「伊作いる?」
「今いねぇな。用事か?」
「うん、ちょっと薬の本借りようと思って」
「あぁー……わり、俺も貸してるところだ。伊作の教科書ならあの押入れに入ってるはずだから勝手に持っていっていいんじゃねぇの」
「え、いいのかな」
「伊作にあったら俺から言っておいてやるよ」
「まじかありがとう!じゃぁそうする」


じゃぁなと私の横を通り過ぎて、留三郎は廊下を歩いていった。

押入れの中か。伊作の押入れの中汚いんだもんな。あんまり手をつっこみたくない。


「はい、失礼致します」

一度意味もなく押入れに挨拶。そしてゆっくり箪笥を開ける。


「お!」


か、片付いてる!伊作の押入れが片付いてる!すごい!成長してる!
前は開けただけで色々崩れて雪崩が起きてきたというのに!凄い凄い!いい子だ伊作!


そして目的でもある薬の製法が書かれた本を探す。今度くのいち教室で薬入りの団子を作る。ちょっとした毒薬でどっかの城の忍者に試してくる。適度な強さの毒薬を作りたい。伊作ならそういうののってる本とか持ってそう。

……うーん、見つからない。どこにしまったんだろ。
っていうかもしかして持って行ってるかな。それか誰かに貸してるかな。



「うーん………うん?」


奥に手を突っ込んでガサゴソと見えないのにあさる。と、奥で本のようなものを掴んだ。これか?






「……!?」






こここここれ春画じゃないですか!!!!!!!!
まさかの!!!!!!!!!!まさかの春画!!!!!!!!!!!


い、いや、いやいやいや、落ち着け、落ち着け落ち着け。小平太じゃあるまいし…。伊作は、伊作は保健委員会の委員長だ…。人体のなんらかのあれに使うんだろなぁそうだろ。
違う。伊作はエロ本見るような子じゃない。

そうだよ伊作は保健委員会委員長だよ!人体についていろいろ知っておかなきゃいけないんだから!春画の一冊や二冊持ってるよ!ね!持ってるよね!そうだよね!

凄い自分に言い聞かせている感が尋常じゃない!


い、伊作には、私がいるんだから…。伊作ちゃんはこんなものに浮気するような悪い子じゃないよ…。よ……ね?



とりあえず元の場所にそれを戻して、一旦気持ちを落ち着かせる。
まさか伊作がエロ本を持っていたとは…。いや、知らんぷりしよう。そうだ。エロ本の一冊彼氏が持っていただけではないか。何をそんなに動揺することがあろうか。

うんうんと自分に言い聞かせ、春画を元の場所に戻して捜索を続ける。
頼むぞこれ以上何も出てこないでくれ。








「ウワァァァァァ!!!!!」




やばやばばばばやばい全部で三冊出てきた予想外すぎるこれちょっと落ち着け伊作どういうことだおい。

ヤバイ。なんかよくわかんないけど一緒に出てきた小さい瓶とかまじでやばい。これ伊作絶対私に使う気でいる。だって小さく「名前用」とか書いてあるあからさま過ぎる。伊作さん変態度上がりすぎです。これは酷いです。


伊作の部屋の襖を開いてガクガクと震え始める私の身体を誰か落ち着かせてください割りとまじで。


コココココ、コーちゃん!!今君が見たものは、全て忘れなさい!!い、伊作に感づかれてはいけないからね!?!?私は今何も見てない何も触れてない何も出してない!!!!


そうだよそうだよエロ本もアダルトグッツもきっと保健委員会のお勉強のためだよね!?!?絶対そうだよね!?!?「名前用」って書いてあるのは私にお勉強として「これはこういうものです」と教えてくれるために書いてあるだけだよねつまりそういうことだよね使うわけないよねなぁんだびっくりしちゃったよ伊作さん私あなたが性的欲求が酷くて春画なんて買ってしまったのかと思ってしまったよそうだよね貴方は保健委員会委員長だもんねそれぐらいの知識頭に入れてて当然だよn「名前?なにしてんの?」

ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!


「えっ!どうしたの!?」


え、エロ委員長が戻られた……!!
悟られるな名前…!絶対に気付かれてはいけないからな……!!


「…な、なに」
「いや何はこっちの台詞だよ。どうしたの押入れに頭打ち付けて」

文次郎みたいだよと笑いながら伊作は抱えた薬箱を下ろして私の前に座った。


「なんで僕の部屋にいるの?僕に用事?」
「え、う、その、」
「名前?」
「そ、そう、用事!そう!く、薬の製法かかか書いてる本、貸してもらえないかなって……」
「あぁそうなの!なんだ早く言ってくれればいいのに」


そういうと伊作は机の引き出しを引っ張ってガサガサと音をたてて、「はい、どうぞ」と探していた本を出した。
留三郎テメェ机のなかじゃねぇか!!!!!!絶対許さない!!!!!!!!!!


「あ、ありがとう」
「…どうしたの名前?気分でも悪い?」
「わ、悪くない!大丈夫!」

「そう。じゃぁ押入れの中で何を見たの?」


「な!?!?な、ななななにも見てない!!!まじで!!押入れなんて開けてない本当n」


「もう一回聞こうか。僕の、押入れを、開けて、何を、見つけたの?」





伊作さんの笑顔がすっっっっっっごい冷めてる。全然目が笑ってない。

あ、これ詰んだわ。





「あ、いや、その、あの」

「言えないようなもの?」

「そ、それは」

「まぁいいや。ねぇ、一緒にこれと同じ瓶も見たよね?」

「!?」

「今出来上がったばっかりなんだけど、何も言わずに飲んでみてくれない?」

「い、いy」

「嫌とは言わないよね?僕の押入れ勝手に開けたんだから。ね?」






留三郎絶対許さない。



























知らんぷりをしましょう




ただしこの手が通じるのは小平太ぐらいです。

彼も卵とはいえ忍者です。

バレるのは目に見えているので腹をくくりましょう。
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