「失礼致します、七松小平太せんぱ………」
「……もそ…」
「し、失礼致しました!出直します!」
「…待て、名前、…入れ……」


小平太先輩に御呼ばれして、私は夕食を食べ終えてから、七松先輩のお部屋に来た。

…のだが、その小平太先輩の姿は無く、いたのは同室の中在家長次先輩だけだった。


「…小平太は今、…滝夜叉丸のところへ、明日の委員会についての話をしに行っている…」
「あ、そういえばそんなこと…」
「…外は冷える……。中で待っていなさい…」
「は、はい。失礼致します」


ポスンと頭を叩かれて、中在家先輩は本を持って部屋を出て行かれた。
多分何故今夜私がこの部屋に呼ばれたのか、察してくださったのだろう。…なんか……すいませんでした………。


小平太先輩と恋仲になってからこういうことがしばしばあるとはいえ、さすがに中在家先輩にまでこうしてご迷惑をおかけしてしまうのは本当に申し訳ない。
私のお部屋に来れば良いのに、「くのいち教室に入れるわけないだろ…!」と真っ青な顔して言われた時は、なんかもう、返す言葉が無かった。

…私のお部屋に来ればいいって、そんなやるき満々な発言してしまったのも今となっては赤っ恥である。

なんであんなこと言ったのか…。




それにしても、




「…汚い……」




ついたての向こう側が小平太先輩のスペースになっている。だが、あまりにも汚い。
お布団は敷きっぱなしだし多分これは使用済みのタオルだ。うわ!汗臭い!最悪!なにしてんの!

そして洗濯済みの衣類等々。少しは片付けてくださいと前々から申し上げているのに…。



全く。世話がやける。……なんで私はあんな暴君を好いてしまったのか…。


小平太先輩がお部屋にお戻りになられる前に、この散らかったスペースを何とかせねば。
散らかる臭いタオルはカゴへ。洗濯済みの衣類は箪笥へ。布団は………敷きっぱなしでいいか…。


畳んだ制服等々と箪笥へしまおうとして、手を手前に引く。うん、予想通りに中も汚い。
あぁ、これは一度出してからの方がきっと綺麗に収まる…。



ポイポイと丸まった服を外に、だ、出した、……だ、…………………








「…なに、これ………」








こここここのえっちなお姉さんの絵が描いてあるここここここれは、ままま、まさか…

しゅしゅしゅ、しゅ、春画…!?!?!?!?





「い、いやぁあ!!」


思わずバサリと放り投げて、ドクドクと騒ぐ心臓を深呼吸して落ち着かせる。

え、こ、ここ小平太先輩、こ、こんなものを……


「名前!?どうした!なんの叫び声だ!!」

「…こ、小平太先輩…」

今の叫び声を聞きつけてか、何処からともなく天井から小平太先輩が降りてきた。



「どうした、なんでそんなところ……で…………」



開いている箪笥。

畳んである洗濯済みの服。

出されている皴だらけの服。

投げ捨てられている春画。




「あ、名前!こ、その、あ、だ、これは!そ、その!!」


全てを理解したのか、小平太先輩は自分の身体の後ろに、問題の本を隠した。



「……こ、小平太先輩…」
「ち、違う!これは!そ、その!」

「…し、信じられないです!わ、わ、私というものがいながら!そ、そんなものを隠しているだなんてぇ!!」

「危ないっ!手裏剣はやめろ!」


懐から愛用の手裏剣をビュッ!と投げ、小平太先輩の背後にある押入れにカッ!と突き刺さった。



「最低です小平太先輩!なんでこんなもの持ってるんですか!」
「い、いや、これは…」
「わ、私とお付き合いしているのに!こ、こ、こんなものを持っているだなんて!」
「い、いや、その…」
「モゴモゴしないでください!最低です!」


目頭が熱くなって、思わずボロリと涙を流してしまった。


「うっ、…グスッ……うっ、ふっ…」
「な、名前…!?」

泣いているのか。
そう言って頭に乗せられた手も、反射的にパシリと払ってしまう。



「最低です…!最低です……!っ…!小平太先輩なんて…嫌いです…っ!」
「…す、すまん……」


グズりながら、顔を覆い隠して泣き崩れる。

最低だ。小平太先輩最低だ。私という彼女がいながら、エロ本なんかに手を出していただなんて。
私というものがいながら、こんなもの隠し持っていただなんて。


「…グスッ……ふっ、…」
「……すまん、名前……。その、…本当にすまん…」

「……グスッ…せ、先輩は、そういうお年頃だって、私も、り、理解はしているつもりです。…でも、でも…」


次から次へと、涙があふれてとまらない。
悔しい。私がいるのに、こんなもの持ってただなんて、悔しい。

私じゃ満足してないのかな。悔しい。悔しい。




まるで、裏切られた気分。






「……よし、名前を泣かせてしまったこんなもの捨てよう!」

「………えっ」
「名前がいるからいらん!すまなかった!」
「えっ」
「隠していて悪かった。もう全部捨てる!いけいけどんどんで焼却する!!」


グッと拳を作って、グシャリと春画を丸めた。

さ、さすが暴君。展開が速い。



















………いや、ちょっと待て。

















「……全、部…?」



「……あ」
「い、今、全部って言いました…?」
「…」

「…それ以外にも、まだあるって事ですか…!?」
「……」


さっきの箪笥を一つ一つ引っくり返す。

洋服と一緒に出てくるわ出てくるわ大量のエロ本。もう服より多いんじゃないのかというぐらいの量が出てくる。


唖然。



流した涙が全部引っ込んだ。






「小平太先輩!」

「全部で108冊ほど」
「煩悩と一緒!!」








ブチリ

と鈍い音をたてて、私の中の何かがキレた。






「最低!小平太先輩最低です!!しばらく私に近寄らないでください!!!」

「ちょ、名前!それだけ勘弁してくれ!!」

「黙れ!歩く生殖器が!!」

「名前!!悪かった!!本当に悪かった!!頼む!!行かないでくれぇ!!」



「触るなっつってんだろ!!頭冷やして出直して来い!!!」






バッチーーーン!!

























「おい名前、小平太の頬に見事な紅葉がなってるぞ」

「それは素晴らしいですね食満先輩!丁度見ごろでしょうね!紅葉狩りでもしてきたらどうですか!むしろ首ごと狩ればいいんじゃないですか!!」

「(…喧嘩でもしたのか……」」














涙を流しましょう





ただし後から何が出てくるかわかりません。

後のショックに備えて適度な量の涙に調節しておきましょう。
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