「はい、じゃぁこれお届け物です。数はあってますか?」

黒い影はコクリと首を振って、私に大きなお皿に乗った肉まんを差し出してきた。


「え、いいですって、ただのお使いなんですから」

黒い影は『そんなこと言わずに』とでも言うかのようにグイと皿を差し出した。


「……じゃぁ、遠慮なくいただきますね!いただきまーす!」


手を伸ばして肉まんをとり、ぱふっと口に運ぶと、肉のうまみが口いっぱいに広がった。
んー!美味しい!ここの肉まんやっぱりおいしい!


「ごちそうさまです!それではまた!」

手を振って屋台から出ると黒い影はヒラヒラと手を振った。


今日は湯屋の外にある繁華街の屋台へ、弟役からのお使いでお届け物をしに行った。久しぶりに湯屋の外へ出た。
でもやっぱり、口から水を吐く蛙の向こうへは行けなかった。蛙の横に立つと足が動かなくなる。

やっぱりこの世界からはまだ出られないのかな。


ま、別にいい。給料もいいし。なんか最近ポジティブに生きていけるようになってきた。

此処結構ホワイト企業のような気がしてきてならない。だって本当の仕事は夜からだから朝にシフト入ってなきゃ好きなだけ寝てていいし。週1は絶対休みあるし。結構いいとこだ。

高3の身でこんなところに来てしまったということは、私は、中卒ということになるのだろうか。

中卒の身でこんないいところに就職できただなんて考えようによっちゃいいのかもしれんな。うん。そうだ。そういう方向で考えよう。



…でもやっぱりまだ青春謳歌したかった……。

こっちの学校は一度手続きに来た時に見ただけだけど、かなり綺麗なところだったしなー。声かけてくれた人もいたし、ちょっと楽しみだったんだけど…。


しょうがないかー。神隠しだもんね。うん。しょうがねぇよ。



「……夏子ちゃんたらなんてポジティブなんでしょう…」


もふもふと肉まんを頬張りながらゆっくりと湯屋に戻った。







すると、



「うひぃ!?」



足首にシュルリと、何かが絡んできた。


なんだ蛇かびっくりした…。




あれ?この蛇ジュンコさんじゃないの?




「…ジュンコさん?」

蛇はしゅるしゅると私の身体を上り、首に絡み付いて顔の横でフシューと鳴いた。


「あ、やっぱりジュンコさんですか?…あれ?迷子?孫兵くんは?」
「シュー」
「また迷子?」
「シュー」


なんだまた迷子かー。

ジュンコさんは私の肉まんをふんふんと嗅いでいたので、食べやすいサイズにちぎって口元に運んであげた。めっちゃ食ってる可愛い。


「孫兵くんは何処にいったの?」


ジュンコさんは首を横に振った。なんだ本当に迷子か。

町を徘徊している黒い影に「よぅ」とでも言われるように手を上げられてこんばんはと頭を下げながら私は繁華街を見回した。
あの美形少年は此処にはいないみたいだ。


「ジュンコさん、私一回湯屋戻ってお使い終わったって報告したいんで…。それを報告し終わってからもう一回此処に来る…でもいいですかね?」


ジュンコさんは承諾するように私の顔に擦り寄った。よし、そうと決まれば直ぐに帰ろう!

私は通りぬける神様に「いらっしゃいませー!」と声をかけながらもうダッシュで湯屋に戻って弟役のもとへ向かった。


「あ、ジュンコさんとりあえず服の中に隠れててもらえます?蛞蝓たちに見つかったら騒がれちゃうかもしれないので…」
「シュー」



























「てなわけで、お使いは無事に終わりました」
「そうか!ご苦労であった!おい!まだ見つからんのか!!」

「…弟役、なに慌ててんの?」
「あぁ!夏子も手を貸せ!」
「いやだから、この大騒ぎは何事なの?」


湯屋に戻り弟役のいるところへ向かうと、湯屋中が大騒ぎになっていた。

あっちこっちで蛞蝓と蛙が走り回っていたのだ。まだ夜もでないし、今日は確か団体客が来るような日でもない。
何かあったのだろうか。


「跋陀婆羅尊者様までもお探しになられているだと!?お客様のお手をお借りしてどうする!!」
「し、しかし!自ら探すと部屋を出ていかれたので…!」

「大年神様までいなくなられただと!?」
「先ほどお部屋に行ったら、あの部屋には誰も……!!」

「あぁなんということだ!草木を分けてでも見つけ出せ!あのお方のお怒りを買っては大事になるのだぞ!!」





……なんだかよくわかんないけど私がちょっと湯屋からいなくなっている間にあっちこっちで問題が起こりまくっているみたいだ。

…面倒だから、かかわらないでおこう。


胸に隠れているジュンコさんをぽんぽんと叩いて、私は再度入り口へ

「おい夏子!」




向かうはずだった……。


くそう関わりたくなかったのに…。




「何?」
「何処へ行くんだ!?」
「もう一個用事あるんで外に」

「そうか!ならば、いいか!外へ行って、もし真っ赤で美しい蛇を見つけたら、傷をつけずに連れて帰ってくるのだ!良いな!!」















………美しい真っ赤な蛇?
















「弟役、もしかしてそれってジュンコさんのこと?」

「!?ジュ、ジュンコ様をお見かけしたのか!?何処でだ!?」
「いや、何処でもなにも」



そういうとしゅるしゅると服から出てきて、ジュンコさんは私の首に絡みついた。



「ジュ、ジュンコ様!?」
「は?様?」












「ジュンコォオオォォオオオオオオ!!!!」























…お?











「何処行ってたんだジュンコ!!探してたんだぞ!!またあの向こうへ行ってしまっていたらどうしよかと……!!!」




…あれ。見覚えのあるイケメンがいる。見覚えのあるイケメンが首のジュンコさんを奪って涙流して感動の再会を果たしている。


…ん!?




「…!?あれ!?もしかして孫兵くん!?」

「は…………え、夏子、さん…?…………夏子さん!?」




指をさしあって名前を呼び合うこの光景に、周りにいた蛞蝓と蛙の視線が全部こっちに集まった。


なんで…!?な、なんで!?





「此処で何してるの!?」
「此処で何してるんです!?」















えっ…!?えぇ!?

退