「なんで私は布団に入っているのでしょう」

「うーん、喜八郎くん寝ちゃったし、起こすのもかわいそうでしょう?」
「..zZ」

「いやー、…それにしても…」


これってデジャブ。寝るまで側にいてねと喜八郎お兄ちゃんに言われた。いや側にいろって膝枕なんてしてたらそばにいる他何もできませんけど。
ゴロリと寝返りを打って私から離れたかと思いきやがっつり腰に腕を回されてすごい力でずるずると布団の中に引き込まれていってしまった。

稲荷様方と同じようなパターンでござる。これ朝までパターンですか。

今はもうしっかり眠っておられる喜八郎お兄ちゃんの頭を撫でて、私は諦めて枕に頭を預けた。っていうか喜八郎兄ちゃん完全に私の大して無い乳に顔埋めてるちょっとやめて欲しい。おい起きろ。


「だからってタカ丸お兄ちゃんまで同じ布団に入ってくることなくない?」
「えーいいじゃない、僕とも添い寝してよ」

チャラいッスねタカ丸兄ちゃん。見た目にあってますよ。

あ、お兄ちゃん呼びはちゃんと許可してもらいました。許可してもらったというかそう呼べと言われたというか。


「ねぇ夏子ちゃん」
「なーに?」

「喜八郎くんって、結構変わってるでしょ?だからね、あの時夏子ちゃんがテッコちゃんとかターコちゃんとか大好きって言ってくれたの、すんごい嬉しそうだったんだよ」

「…そんな風には見えなかったよ」
「恥ずかしがり屋だもん喜八郎くん。あれからあの山穴だらけになってね、どっかに夏子ちゃん落ちてないかなって毎日のように探してたんだよ」

村の子とかが落っこっちゃったりしてたけど。とか言ってるけどそれ笑顔で言っていいことじゃないよね。大問題だよね。

「でね、誰か落っこちてても夏子ちゃんじゃない。助けてって声がしても夏子ちゃんの声じゃない。凄くがっかりしてた」
「…うん」

「『いつになったら逢いに来てくれるんでしょうか』って、毎日毎日聞いてきたんだ。僕も一緒に待ってたけど、夏子ちゃんは中々現れてくれなかった」
「…」

「ついに喜八郎くんはね、夏子ちゃんのことは忘れようって思ったみたい。
自分とは違う存在のことを思っても、ツラいだけだからって。きっと僕たちとの約束も忘れちゃったんだって。そう言った日から、ぱったり夏子ちゃんの話はしなくなったの。

でもね、喜八郎くんは穴を掘るのはやめなかった。それで次の日になったら必ず穴の中を確認してから穴を埋めるの。いないって小さく呟いてから穴を埋めるの。見てられなかったな。あの時の喜八郎くん」


タカ丸兄ちゃんの顔から笑顔が消えて、私に引っ付いている喜八郎兄ちゃんの髪をふわりとなでた。


「だからね、さっき逢った時中々思い出せなかったんだろうなって思ったんだ。夏子ちゃんがお仕事に戻った時ね、凄く嬉しそうに笑って、泣いてたの。」















タカ丸さん、やっと逢えました

そうだねぇ

僕らのこと覚えてないみたいですけど、やっと逢えました

よかったね

思い出してくれますかね。夏子ちゃんは僕らのこと、思い出してくれますかね

うん、夏子ちゃんはとっても良い子だもん。きっと僕らとの約束も思い出してくれるよ

そうだといいですね。やっと逢えた。やっと、やっと…!















「夏子ちゃんは、思い出してくれた。きっと喜八郎くんは、天にも昇る気持ちだったんじゃないかな」

ふわりと笑って、タカ丸兄ちゃんは私の頬を撫ぜた。


「タカ丸兄ちゃん」
「なぁに?」

「私、すっかりその約束忘れてたの」
「うん」
「…ごめんなさい。待っててくれたのに」

「うん、もういいよ。こうして思い出してくれたし、こうして一緒にいてくれるだけで嬉しい」


昔を思い出すねぇと、タカ丸兄ちゃんはまたふわりと笑いかけてくれた。

私の枕を奪ってタカ丸兄ちゃんは自分の腕を私の頭の下に持ってきた。あ、腕枕だ。


「タカ丸兄ちゃん、近いよ」
「いいじゃん。昔みたいに僕の腕で寝なよ」
「懐かしい。タカ丸兄ちゃんの腕枕でお昼寝したねぇ」
「あ、覚えててくれたんだ」
「うん、思い出した」


また稲荷様の時と同様、サンドイッチにされて私はぎゅっと抱き枕状態にされた。

昔私は、この友人と山でお昼寝をした。村の子に「なんで一人で寝てるんだ」と聞かれたけど、私の横にはいつもこの二人がいた。
「一人じゃない」って言って、気味悪がられたけど、それでも別に構わなかった。

だって私と友達になってくれたお兄ちゃんがいるんだから。



「夏子ちゃん」
「うん?」
「また、遊びに来ていいかな?」
「もちろん、喜八郎兄ちゃんと一緒に来てね」
「うん。もちろん。紹介したい友達もいるんだ」
「うんうん、いつでも大歓迎だよ」

「その友達と喜八郎くんが喧嘩しちゃって…」
「えっ」
「でも悪い人じゃないんだ!是非逢って欲しいな」
「うん、多分暫くここから出られないとおもうから、待ってるね」

「…今度は夏子ちゃんが待ってる番だね」
「逢いに来てね」
「僕は約束忘れないよ」
「ごめんってばー」


「…僕も忘れないよ」

「あれ、喜八郎兄ちゃん起きてたの?」


もぞりと動いて、私の胸の辺りから声がする。やっと起きてくrおいやめてくれ乳に顔埋めないでくれそんなにないんだごめんなさい


「タカ丸さん、もしかして滝夜叉丸を呼ぶ気ですか」
「うーん、もう仲直りしなよぉ」
「知りません。滝夜叉丸なんて三木ヱ門と遊んでいればいいんです」
「そんなこと言わないでさぁ」


ぷいと顔をそらした。誰だろうたきしゃまるときみえもんて。神様かな。


「…夏子ちゃん、これ預かってて」
「何?」


ジャラリと腕に通されたのは、凄く綺麗な数珠。青と赤の数珠だった。
うわぁ本当に綺麗。宝石かなにかかな。こ、こんな高そうなもの私が持ってていいんだろうか。


「…次に僕が此処に来るまで預かっててね」
「う、うん?解った」
「き、喜八郎くん、それはマズいんじゃ」
「おやすみなさーい」


もぞりもぞりと下の方へもぐっていき、また喜八郎兄ちゃんからいびきが聞こえた。あ、これ完全に寝たわ。もう起きないわ。ちょっと腕放して欲しい。苦しい。死ぬ。


「…はぁ、夏子ちゃん」
「ん?」

「次に遊びに来るときは、可愛い簪とか髪留めとかお土産に持ってきてあげるね」

「本当?」
「うん。約束するね」
「うん、約束ね」


おやすみなさい。

そういってタカ丸兄ちゃんは私の瞼に手を置いた。

































昔の夢を見た。

穴に落っこちた私を笑いながら助けてくれる


私の大好きなお兄ちゃん二人と遊んでいる夢。






























朝起きると、二人の姿はもう無くて、

枕元には



"挨拶できなくてごめんね

急ぎの用事が出来たんだ

また来るからね 喜八郎 タカ丸"


と書かれた手紙が一つと


可愛い簪が一本置いてあった。

退 

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