44.第三いは組

「なめくじ怖い……なめくじ怖い……」

なめくじ顔面攻撃、怖すぎ。


二年生でもあの身のこなし、あの技の使いよう。本当にこれはたった一年の差と侮らない方がいいのだなと実感した。一年生は見よう見真似で自身の委員会の先輩たちの武器を使ってみたと言っていた。初めて使う武器というのは中々上手くはいかないもので、必ずと言っていいほどに失敗するはず。だが一年生たちは見事にそれを使い私を狙ってきた。
二年生は自身の得意武器をもうほぼ確定させているといっても過言ではないほどで、それに入学してから二年という短い期間で学んだ技を存分に発揮していた。ただの喧嘩かと思いきやそれも忍術。しかもチームプレーときたもんだ。しろちゃんはあの中で一人クラスが違うから単独行動だったのだろうか。だけど正直、あの三人よりスピードも攻撃力もズバ抜けて強かった。恐らくあれは体育委員会だからこその成せる業だろう。この間金吾としろちゃんとであった時二人はへろへろだった。きっと体力的にキツい内容であるに違いない。委員長は誰だろう。もう出会ったことがある人かな。委員長というからには最上級生、つまりは六年生か。うーん潮江か……小平太か…。いや、立花は、ないない。あ、そういえば三之助が風呂で体育委員長の小平太がうんぬんみたいな話してたな。小平太か。あぁまぁ、そんな感じするけどね。



日が真上に上った。


「さてさてどっちに向かったものか……」


ところで私はまだ範囲内の山にいるんだろうな。どうもこの辺の地形というのは解り辛くて困る。昨夜土井先生から地図をぱっと見せてもらったものの、崖と川の情報以外は何も頭に残るようなものはなかった。見渡す限りの樹、樹、樹。右を見ても樹。左を見ても樹。上を見ても樹。下を見れば


「……蛇、」


真っ赤な蛇が、一匹。私の股の間を通っていた。これは可愛い海蛇、かと、思ったが、此処は地上。それにこいつは赤。なんだろう。毒でもありそうだけど、それにしても綺麗な蛇だなぁ。キラキラした眼に吸い込まれてしまいそうだ。綺麗な眼。綺麗な肌。


まるで、野生とは思えないほどに。


「っ!?」


蛇が私の顔面に向かって、飛んだ。ヤバイ。あと0.1秒でも遅ければ鼻先を噛みつかれていたことに違いない。仰け反るように背を反らし蛇は私の後方へと飛んで行った。野生か。それとも飼われている生物なのか。


「香織さん、見つけましたよ」

「やっぱり飼い蛇だったかぁ、どうりで美人な子だと思ったよ」


「僕の友人の、ジュンコと申します」


パタリと蛇が乗ったのは、色白い美人な顔の男の子の手。なるほど、名をジュンコちゃんと言うのか。雌かな?


「あ、君確か開始前に私に毒虫は平気?って聞いてきた子だよね?」
「えぇ、覚えておいて貰えて光栄です。そういえば名を名乗っておりませんでしたね。伊賀崎孫兵と申します。どうか孫兵、と。三年い組の、生物委員です」
「あぁ生物委員ね。うん、そんな感じするわ」

会話しながらも臨戦状態。互いの笑顔はおそらく腹の探り合い。どっちが先に動くかタイミングを見計らっているのだろう。生物委員と言えば、私が虎の時に出会ったハチと同じだなぁ。じゃぁハチの後輩ってことか。なるほど、色白い肌に赤い蛇とは、赤が良く映えるねぇ。

「孫兵は、蛇を使うのかな?」
「えぇ、他にも虫やらを。これらを虫獣遁と言います」
「なるほどなるほど」


「そう例えば、そんな風に」


指差すのは私の顔。その正面を、ふわりふわりと二匹の蝶が飛んでいた。ぐるりと私の顔の周りを回りながら、不気味な色をした羽を羽ばたかせていくのだ。


「毒…かな?」
「嗚呼さすがに、川西左近の後では此れはすぐにバレますか」
「さっき左近の毒を食らったんだ……って、なんでそんなこと」
「解りますよ、腕にあるその怪我。もっと、急所を狙えばいいものを、そんな腕なんかに…。善法寺先輩と、数馬の仕業とは思えない」


その台詞がした瞬間、私の背後の樹が揺れた。孫兵も囮だったか!と後ろを振りむき体を構えたのだが、其処には誰もいなかった。ん?ハメられたか?



「痛ッ……!?」


チクリと痛む、利き腕。構えていた腕は、力なくだらりと下へ垂れた。えっ、なにこれどうしよう。力が入らない。



「保健委員会は怪我の治療だけではなく、人体のすべてを把握しています。例えるなら、骨やら、血管の配置やら、あとは、ツボとか、ですかね」
「……針、かな?」

「御名答!保健委員会の、三反田数馬と申します。三年は組です!」


「樹を揺らしたのは僕です。陰に隠れて後ろに回り、香織さんの注意をこちらへそらしたのち、数馬に攻撃させました!」
「下着の術ってやつだね!」
「大正解です!同じく、三年は組の浦風藤内と申します!作法委員会です!」


投げやすくしていたからか、元々こういうものなのか、肩に刺さった針は刺さってはいるが中々長い物で、指に当たってすぐに引っこ抜いた。元々注射が嫌いな私はこの針が抜ける感覚にぞぞぞと鳥肌を立たせたのだが、それを抜いてちょっと時間が経つと、腕は動くようになった。

「…三年生の保健委員は恐ろしいね…」
「善法寺先輩に比べれば、僕なんてまだまだですよ」
「数馬は、もしかして私が怪我をしてたとき治療してくれた子かな?」
「えぇ!僕もいました!」
「ありがとう!本当に助かったよ!早く保健委員の皆にはお礼が言いたかったんだけど…」

「お気になさらず!怪我をした人いれば保健委員が動くのは当たり前ですから!」


くぅっ!!いい子や!!ほんまええ子やでこの子!!

一旦タイムを出して三人から了承を得たので、一旦数馬と感謝の握手をしつつ針をお返しした。針に私の血がついていないとこみると、本当にプロの技なのだなぁと心底感心した。一年生を相手にしてた時からうすうす感じてたけど、やっぱり下級生だからと侮ってはいけないんだよね。これでもプロの忍びを目指す子たちだもんね。


「よし!タイム終わり!おいで!本気で相手してあげる!」

「ではいきましょう!」
「手を抜かないでくださいね!」
「僕らも全力で行きます」


孫兵の虫遣いは見事な物だった。懐に入っていた虫かごやらを開けては毒蛾を舞わせたりしていたが、それの指示の的確さと言ったら。むしろ、私の様な能力者でもないのに生き物と心を通わせているというのが凄すぎる。虫獣遁の術もさることながら、身のこなしもなかなかのものだ。懐に居れたら確実にやれれる。孫兵はジュンコちゃんとペアをくんでいるということもあって接近戦はなのだろうな。

一方こちらもなかなかの良いコンビネーション。藤内が隙を作り数馬が私に突っ込んでくる。数馬の攻撃がかわされれば、今度は其処へすかさず藤内が飛んでくる。藤内は手裏剣が上手い。狙いどころが私の顔面と的確だ。ちょっと頬を斬ったかな。二人を逆立ちの様な状態で蹴り上げると、すきをついてそこへ孫兵とジュンコちゃんが飛び込んできた。ジュンコちゃんが口開けたアップ怖すぎ泣いちゃう。

咄嗟に片手で落ちている枝を横に、開くジュンコちゃんに口にかませるようにはめ、孫兵は両足で挟むように受け止め、そのまま後ろへ一回転。背を叩きつけた孫兵の上にのしかかり、不覚にも一本腕に刺さった数馬の針先をいつでも投げられるぞと警告するように数馬と藤内に向け、孫兵の首を反対の手で掴んだ。


「はい、ここまで」


「あぁやはり、三人でも勝てませんでしたか」

「お強いですね香織さん…」
「手も足も出ないとは……」


「なんのなんの、みんな素晴らしいコンビネーションだったよ!ねぇジュンコちゃん?」


特に、孫兵とジュンコちゃんはね、と言えば、ジュンコちゃんは嬉しそうに孫兵に針を向ける私の腕に擦り寄った。


「……香織さん、ジュンコの言葉、解るんですか?」
「え!?あ、いや!?べ、そ、ん!?そんなわけなじゃん!?」

「例えそうであったとしても、竹谷先輩には気を付けてください。あの人は僕より、もっと狂暴な動物を扱います」
「…へぇ」
「あの人は同類殺しですよ。この学年で獣を扱うのだとしたら、先生でも、竹谷先輩の右に出る者はいません。例え香織さんが虫獣遁を使えるとしても、あの人には敵わない」
「…忠告ありがとう孫兵。でもこっちでも負けるわけにはいかないんだ」

孫兵の首から手を離し、針は倒れる数馬の足元に刺すように投げ、私は三人から距離をとった。


「作兵衛と三之助と左門がいないね。この三人は別行動?」

「いえ、迷子です」
「えっ!?」

「本当は六人がかりで貴女を狙おうと思っていたのですが、左門と三之助がどっかいっちゃって」
「僕らが捜しに行こうとしたところに香織さんがいらっしゃったものですから」
「作戦変更して、三人で貴女を捕まえようかと」

「あぁなるほど……。見つかると良いけど…」


じゃぁわざわざこちらから出向くこともないだろう。逃げながら、出会ったら出会ったで相手をしよう。



「それじゃ、またね!」

「また捕まえに行きますからね!」
「上級生が近くにいます!」
「くれぐれもお気をつけてーー!!」





























「あー!!虎若!!香織さん香織さん!!」
「えっ!?何処!あ!本当だ!!」

「えっ!?なんで銃なんか持っtああああああああああ!!!」
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