43.対第二学年

うっうっ、ひどい目にあった…!まさかハタキでタコ殴りにされるなんて…。伊助ちゃん恐ろしい子……!!



「あー痛かった…。なんでハタキ持ち歩いてんだ…」


太陽が段々と高い位置に移動し始め、樹の上に移動しても木もれ日と一緒に私の影は地に落ちてしまっている。そろそろ真上に到着してしまいそうだし、樹の上で隠れよう作戦も段々意味がなくなってきているかもしれない。みんな目ェいいだろうしバレるのも時間の問題だろうか。ううん、皆の視力を侮ってはいけないだろうし、バレたらバレたで腹をくくろう。

木の上から見えるのは小さい湖と大きな岩。忍術学園の子は見当たらない。そろそろお昼ご飯とかしてもいいかな。おばちゃんからもらったおにぎりとを三つ中の一つを口に含んだ。おぉ高菜。めちゃめちゃ美味い。っていうかお握りが美味しいってすごいことだよね。ただ米を握っただけなのに美味しいとかもうおばちゃんの手からなにか出てるんだと思う。うまみ成分的な。なんでエースのお握りマズかったんだろう。メラメラさせちゃったのかな。焼きすぎたのかな。あぁ確かにコゲ臭かったからなぁ。

「ちょっとしんべヱ!何処いくのさ!」
「んー、なんかこっちからいい匂いが…」

「!」


樹から足をぶらぶらとさせていたら、下から声が。


「こっちに食い物屋なんてないぜぇ。気のせいじゃねぇの?」
「えー!気のせいだったのかなぁ…」

「其れよりはやく香織さんを見つけないと!さっき庄左ヱ門が見つけたって言ってたし、まだこのあたりにいるかもよ?」

あぁ、乱太郎としんべヱときり丸かぁ。しんべヱの鼻は凄い利くのか。まさか私のお握りの匂いを辿って此処まで来たんじゃあるまいな。この辺で食い物の匂いなんかしない。他の場所で誰かが獣でも仕留めているのなら別だけど、私の鼻にそのような匂いは届いていない。え、本当にこのお握りの匂い?しんべヱ怖すぎじゃね?
急ぎおにぎりをしまい口の中に入れていたお握りも呑み込んだ。念には念を重ねて口を手でふさぐ。なるたけ息もしないように見下ろしていると、しんべヱは鼻をすんすんするのをやめた。嘘やん。本当に私のお握りの匂いだったのかよ。怖すぎ。

「なんだ気のせいかよ。銭にもならないのにこんな場所まで足運んじゃったじゃねぇかよー」
「んー、ごめんねぇ」
「まぁまぁきりちゃん。しんべえも。まだ時間あるし、早く香織さん探そう?」
「そうだなー。じゃぁ水筒に水でも………!」

荷物から竹の水筒を取り出して、小さい湖のような場所へきり丸が腰を下ろすと、きり丸は動きを止めて、


「ら、乱太郎、しんべヱ!早く!ここ離れるぞ!」

「えっ!?ちょっときりちゃん!?」
「あー!待ってよー!」


何故か、乱太郎としんべヱの手を引いて、遠く遠くへ走り去って行ってしまった。

はて、一体何があそこにあるのか。樹に立ち遠くを見たが、もうきり丸たちの姿は見えなくなってしまっていた。では降りても大丈夫だろうか。地に降り湖に近寄ってみたが、特に何も変わったところはない。少し濁っている程度で、大きな生物がいるわけでも………。


「っ!!!」


咄嗟に身体をのけぞらせ、バク転するように後方へ飛んだ。さっきまで私がいた場所の宙には、槍が飛び上がっていた。


「どっから……!」



「っぶはっ!!惜しい!あとちょっとだったんですけどねぇ」



「み、水の中!?」

湖に刺さっているように浮いていた竹。それを握って水の中から出てきたのは、青い忍服の、イケメン。池メンってか。やかましいわ。

「忍たまの子か!お名前は?」
「二年い組、火薬委員の池田三郎次と申します!」
「二年生かぁ、三郎次でいい?」
「お好きにどうぞ!」

「それにしても凄いとこに隠れてたねぇ」
「あいつらが変な動きしなけりゃ、湖に近寄ってきた香織さんをやれたんですけどねぇ。バカだなぁ、あからさまに変な動きするからこうなるんだよ」
「君は槍使いなんだね?」
「家が漁師で、銛で特訓しました。忍び八門の内の一つです」

おぉ、中々口が悪い子だなぁ。一言多いというか口が悪いというか。濡れた服を絞り髪をかきあげる彼は将来確実にイケメンに育つと私は確信した。
槍を拾い上げ戦闘態勢に入る彼。私も中々油断していたのか、まさか湖の中に隠れているとか想像もできてなかったから。とはいえ相手は下級生。戦ったとしても怪我させないように気を付けないと。
飛びかかってきた三郎次に私も飛びかかって戦闘に入った。槍は長い。懐に入ればこっちのもの。槍とともに伸びた腕の中に入り込み拳を握ったのだが、一瞬のすきをついて、三郎次は濡れた己の頭巾を私の腕に巻きつけた。ビシャッと濡れた頭巾が腕に張り付き、なんだと思っているのもつかの間、その腕目がけて、別の方向から手裏剣が飛んできたのだった。まだ誰かいる。一度三郎次から、そして手裏剣が飛んできた方向から離れ体勢を整えた。頭巾は、私の腕ごと少し切れていて、少し血が滲んでいた。良く見ると切れている個所は二か所。ほほう的確。刺さってないだけありがたい。

「これはこれは、私の担当医さんのお出ましではありませんか」
「べ、べつに香織さんの担当医じゃないですから!」
「先日は包帯をどうもありがとう。おかげですっかり治ったよ」

木の陰からガサリと出てきたのは手に手裏剣を携えた真っ赤な顔の左近くんだった。あぁ左近くんも保健委員会だった。何を使ってくるかとおもったら普通に手裏剣か。

「左近くんだったよね、狙いが的確で素晴らしいけど、刺さらなかったのは残念だね」
「いえ、狙いはそれを刺す事ではありませんから」
「え、」


「それに毒が塗ってあった、と言ったらどうします?」


「!」


保健委員会が人助けのためだけに薬を使うとお考えでしたら、それはちょっとした間違いですよ。それはちょっと前に伏木蔵が言っていた言葉だ。そうだ、薬は怪我を直すために使うものじゃない。あぁそうだ!そういう戦い方もあるって言ってたじゃないか!私のバカバカ!


「濡れた頭巾の上を手裏剣が掠めました。傷口から薬が入るのはもちろんのこと、塗り薬というのは皮膚から浸透していきます。水に馴染ませるために特別水っぽくした薬を手裏剣に塗っておきました。頭巾を伝って、傷口以外の場所、つまり、傷口じゃない皮膚からも、香織さんの腕は徐々に痺れていくでしょう。…それにしても、なんで利き腕に巻かなかったんだよ三郎次!」
「仕方ないだろ!香織さん早くてそれどころじゃなかったんだよ!むしろ感謝しろよ!俺があれやんなきゃ武器も使えなかったくせに!」

「だけど僕は香織さんの利き腕に毒を入れないと意味がないって言ったじゃないか!」
「そう都合よく出来るわけないだろ!相手は香織さんなんだぞ!」
「作戦通りに動いてくれなきゃ後が困るだろ!」
「それをこなすのが俺たち忍者のたまごだろ!!」
「言い訳すんな!」
「なんだとぉ!?」


ぎゃんぎゃんと言い合いをしている横で、私は頭巾を外して傷口を思いっきり吸った。血の味がするのと同時に、微妙に辛いような味もした。これが薬か。口からはいったら元も子もない。水筒の水で口の中をすすぎ吐き出した水を傷口にぶっかけた。さすが保健委員会。こういう戦い方もあるのか。呼吸から入る薬以外もあるのね。こりゃ六年生にあたったらなにしてくるか解ったもんじゃないな。確かに、利き腕じゃなくてよかった。ちょっとビリビリする。

やいのやいの言い争っているちっこい二人を可愛いなとか思いながらほんわかタイムを味わっていると、上から人影。チッとかすった鼻の頭はひりりと熱く、目の前を何かが掠めたようだった。飛び退き後ろへと飛ぶと、私がいた場所には別の青い彼が。


「あっぶな…!?」


「囮となった者、物。あるいは全く関係のない物、場所へと敵の注意を集中させ、その隙をついて攻撃する。これを下着の術と言います。お初にお目にかかります。図書委員会、二年い組の、能勢久作と申します。以後お見知りおきを」


「久作、久作ね。これはこれはまた手強そうな子だ…」

まるで口上を述べるように術を説明し、そのまま自己紹介をする彼は能勢久作くんといった。前髪金髪。金吾と三之助と一緒だ。流行ってんのかな。
左近と三郎次はかかった!とでもいいたそうな楽しそうな顔でこっちを見ていた。なるほど、グルだったか。伸びかかってきた久作が振り回すのは扇子。また薬でも飛ばしてくるかと思ったのだが、その扇子は以上に固く、腕で受け止めたのを後悔するほどには痛かった。扇ぐ扇子よりは大きく、それていて鉄製なのか固く、これで頭でも殴られたらたまったもんじゃない。心苦しいが飛びかかる久作を蹴り飛ばし、さらに槍を振り回す三郎次を投げ飛ばし、手裏剣を投げる左近の手を掴み遠くへ身体を投げ飛ばした。

三郎次が出て、左近が来て、久作が来たとなれば、私の知る二年生は




「そら来た!!」

「勝負です!!」




真正面から長い爪の様なものを私向けて突っ込んできたのは、体育委員の四郎兵衛だ。前に金吾と歩いてて自己紹介済み。ぽかんとしたのほほんフェイスからは考えられないほどの力強い攻撃。蹴り飛ばされようがすぐに体勢を元に戻し再び突っ込んでくる。私の攻撃に耐えられなかったその他二年生はやられたところを押さえながらも驚きの顔で、四郎兵衛の攻撃をただただ見つめていた。

さすが体育委員会。攻撃力がほかの二年生の子とケタ違いだ。

「しろちゃんそれなに!?」
「鉤爪といいます!」
「それにやられたらひとたまりもないね!」
「よそ見は禁物、なんだなっ!!」

顔スレスレをかするそれは、一度引っかかれば恐らく肉ごともってかれると思うほどには鋭く光っていた。的確な狙いは私の首を狙っているのか、攻撃は上に集中している。だがこれでも私は海賊の端くれだ。攻撃の手など、すぐに解る。


「っらぁ!!」
「うわぁぁ!」


近くに落ちてた太い木の枝を拾い上げそれを四郎兵衛の鉤爪を刺させるように顔の前に持って来た。鉤爪の刃は思った通り枝に刺さったため、それをはめていた四郎兵衛の腕は動かず。私はそれを手放し、力強く枝を蹴り飛ばした。木の方が重く、蹴り飛ばした力はそれに集中し、四郎兵衛はそのまま、吹っ飛ばされた。あ、腕大丈夫かな。抜けてないかな。


よし、片付いた。


まずいなぁ、また騒いでしまった。乱太郎たちがいたってことは、まだこの辺に誰かいるかもしれないなぁ…。


「四郎兵衛腕大丈夫?」
「は、はいなんとか…」

「左近は?」
「ご心配なく…」

「三郎次は?」
「大丈夫です…」

「久作は?」
「ご安心を…」



「そいつはよかった。じゃぁ私は逃げるぜよ!二年生もなかなか手ごわいね!また逢ったらよろしくね!!!」




























「四郎兵衛……」
「なぁに?」

「…お前いつも実習の時、手ぇ抜いてたのか……?」
「あ………」

「なんだよあの身のこなし…」
「僕らより全然…」
「香織さんと戦えてるとか……」

「いや、…その……」


「………つ、次は手抜くなよ…」
「!」


















「あ!喜三太!喜三太!香織さん見っけ!」
「え!はにゃぁ!本当だぁ!ナメさんたち攻撃開始ぃー!」

「ぎゃあああああああああああああ!?!?!?!?!」
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