41.対一年い組

「まず自己紹介が欲しい。出来れば名前と、クラスと委員会も教えてほしいかな。いきなりだけど呼び捨てさせてもらうね!」

はい!と可愛い返事が四個。
両腕で猿のようにぶらぶらとぶら下がる私を見上げる可愛い影は、ぎゅっと力強く武器を握りしめて、早くも戦闘体勢に入っていた。きゃわいいー。


「任暁左吉と申します!一年い組、会計委員です!」
「黒門伝七です!同じく、作法委員会の者です!」
「同じく生物委員会、上之島一平です!」

「はいありがとう!それで、彦にゃんだよねー?」
「はい!見つけましたよ香織さん!勝負してください!」

「やる気があって大変よろしい!よーしその勝負買った!」


樹から手を離して地上へ降りる。ズシャッと音を鳴らした落ち葉が飛び、はらりはらりとそれは舞い落ちた。その隙にと、私の前に左吉、右に一平、左に彦にゃん、後ろには伝七が回り込み四方は囲まれた。凄いな、一年生なのにもう一瞬にして戦う姿勢を整えるのか。これにはさすがに感心した。

やっと可愛い可愛い一年は組をまいてきた。逃げ回る私を元気いっぱい追っかけてきた一年は組の皆は、私が樹に飛び移ると一瞬にして見失ってしまったのか、あれー!?と叫びながら蜘蛛の子が散るように四方八方へ散ってしまった。

助けようと思ったのだが、まぁ時間はまだまだあることだし、はぐれても上級生の誰かが見つけてくれるだろう。まだ焦るような時ではない!あの子たち恐らく適応力高そうだから山の中でも平気で暮らしてそう!うん!きっと大丈夫!


それより私は今、私を取り囲んでいる四人をなんとかせねば。彦にゃん情報によれば一年生で一番成績がいいのはこのクラスのこの子たち。だと。ふむ、私もこの子たちから学ぼう。


「よーし、かかっておいで!」


身体を低く構える四人。

まず最初に動いたのは私の背後にいた伝七から。小さく地面に落ちていた葉っぱが動く音がした。確か伝七はクナイを手に持っていたはず。地面を蹴る音。飛ぶ葉っぱ。


上か。


「よっ!」
「っ!うわぁ!」
「おー!上手い!さすがい組!」

狙われたのは頭上。体を低くしクナイを手に飛んでくる伝七の腕を強く引き、その体を地面にたたきつけるように引っ張った。だが意外にも掴まれていない反対方向の腕を伸ばし、地面につけた。グルリと回った伝七の体はうまく受け身をとったようで、怪我は負っていなかった。咄嗟の判断で受け身をとれるとは凄い!

「やぁっ!!」
「ぎゃあ危ねぇっ!!っと!」
「く、車返しの…っ!」

左吉から飛んできた手裏剣を右手人差し指と中指で挟むようにキャッチし、そのまま勢いを殺さぬよう体も一緒に回転させ手裏剣を投げ返した。間一髪避け切れた左吉は小さく斬った頬を押さえて転がり落ち葉だらけになっていた。手裏剣はそのまま向かいの樹にストッと刺さった。うおおおお私手裏剣投げられるようになってるやべぇええええ。


「はっはっh……うわっ!犬!?」
「噛みつけケンちゃん!」

一平が私を指差しそう叫ぶと、草陰から中々の大きさをした犬が一頭現れたので、私は後方へ飛ぶように逃げた。

そういえば一平はさっき生物委員会に所属していると言ったな。生き物を扱ったりするのは一年生でも出来るものなのか、はたまた一平とこの子との信頼関係が深いからこそできる技なのか。




「三人と一匹!動くな!おとなしくしろ!」



「うわっ、香織さん!?」

「ふっふっふっ、彦にゃんがどうなってもいいのかぁぁ!」


わざとらしく悪人のようにそう言い彦にゃんの身体を盾にして首にクナイを突き付け、三人の動きを止めた。「止まれ」と犬…ケンちゃん?を一睨みすると、ケンちゃんも事の異常を解ってくれたのか、ピタリと動きを止め一平の元へ戻って行った。

伝七は、私が彦にゃんの首に当てているクナイを見て、あれ!?と自分の手元を確認した。私が今持っているのは伝七のクナイだ。すったのよ。おほほほこういう小汚いのは得意でね。


「ごめんね彦にゃん、でも一年い組は彦にゃんが言うとおり中々優秀の集団のようだね」
「なんていったって、優秀ない組ですから!」
「素晴らしい!私にも今度忍術教えてね!」
「もちろんです!……でも香織さん、御一つお忘れではありませんか?」
「…何?」


「僕だって、優秀ない組の、学級委員長ですよ?」


「っ!?」


気が付いたら、私の腕の中にいたのは彦にゃんではなく、彦にゃんと同じぐらいの大きさの樹だった。こ、これもしかして変わり身の術…!!な、生変わり身の術!!!


「ひ、彦にゃんは!?」

「僕はここです!!」

「!」


ボン!と背後の落ち葉が飛び上がりそこから飛び出た彦にゃんは、勘ちゃんが振り回していた鎖を振り回し私に投げ飛ばしてた。うっかりしてた、地面は落ち葉だらけだ。木の葉隠の術ってこういうところですごいやりやすいじゃないか!!

あまりに一瞬の出来事で私は情けなくも前転するような姿勢になりゴロリと地面を一回転して樹に飛び移った。あと一瞬遅かったら、あの鎖に絡め取られていたかもしれない。
樹の枝へ枝へ飛び移り、私と一年い組との勝負は私の逃亡ということで勝負が終わった。これ返すね!と伝七の足元へクナイを投げるが、おもったようにザクッ!と刺さらなくて悲しくなった。もっと勉強しよ。


「凄いね彦にゃん!そんなもの使えるんだ!」
「尾浜先輩に特訓してもらったんです!香織さんに勝てるように!」

「すんばらしい!その向上心大事にね!伝七も左吉も一平も、私が忍術について詳しくないからかもしれないけど、とでも一年生とは思えないね!すごい腕だ!タイムリミットはまだまだ余裕がある!また逢ったら勝負しようね!それじゃ!」


横の樹にうつり猿のように枝を伝い他の樹へ飛び移って行った。こう落ち葉が多いと彦にゃんみたいに隠れられてたら解んないから、地面を歩くのは危ないなぁ。しばらく樹の上逃亡しよっ。




「香織さん!お気をつけてー!」
「また勝負してください!」
「絶対に捕まえますからね!」
「覚悟しててくださいねー!」


「OK!他のい組の子にもよろしくねー!!」





日はまだまだ高い。でも腹減った。


さーて、お次は誰が来るのかな。
(41/44)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -