39.殺る気満々 ゴーン……― 「!」 グラウンドで目を瞑り昼n精神統一をしていると、いつの間にか時間が来たのか大きく鐘が鳴った。塀の向こう側で動く気配はきっとトラップを仕掛けに行った子たちが戻ってきたということだろう。私は立ち上がり山を見てうーんと大きく背伸びをしながら門の方へ向かった。門の前には小松田さんが出門表を持って立っていてくれて、私は名前を書いて門をくぐった。 これから一時間、何処かへ隠れながら移動しなくてはならない。さーてどの辺に行こうかなー。 「香織さん!」 「?お、乱太郎くんきり丸くんしんべヱくんじゃない」 声をかけられ振り向くと、門の中から顔だけを出した三人組の姿が。あらやだ可愛い。 「あと一時間後逢いましょうね!」 「俺たちは組は実践に強いんスからね!」 「ぜーったい捕まえてみせます!」 「ははは、そりゃ楽しみだ!私も手加減しないからね!じゃぁね!」 「「「お気をつけてー!」」」 手を振り体の方向を変えて、私は山の中へと駆け込んだ。 麓までたどり着いたところで私は周りに誰もいないことを確認して姿を虎へと変えて山頂まで一直線に駆け上がった。一時間あるとはいえのんびりしてたら上級生たちは一気に見つけてきそうだ。なんかさっきの発言で堪忍袋の緒が切れてしまったような音が聞こえてしまったし、多分上級生たちは容赦なく私に勝負をしかけてくるはず…。おほほ挑発してしまった怖い怖い。どうしよう援護が欲しい。マルコ隊長が側にいてくれれば…。偵察とかしてきてくれるのに…。 いやいやいや今いない仲間のことを思ってもどうしようもないしな…。ここは私一人で乗り切らなきゃいけないし…。 そういえば先生方は何をしているんだろう。山の中で巡回でもしてんのかな。…私のことを監視なんてしてないよね?まぁ気配しないし心配はしなくていいかな。 先生たちが各地に散らばってるのなら安易に虎の姿に変えるわけにはいかないとは思ったけど、さっき門に行く途中で先生方を見かけたし、小松田さんの横に吉野先生もいたし、多分、まぁ、……此処にはいないよね。 「おぉ、もうこんなところまで……」 何処まで来たのか把握したくて人の形に戻り樹に上ってみると、意外と山頂付近にきていたみたいで、忍術学園は米粒ぐらいの大きさに見えた。もうこんなところまで来てしまってたのか。無心で走り続けるって怖い。 「……んー、…………たしかこのあたりに……あ、発見!」 樹から飛び降りその辺を散策すると、私がこの世界に来たとき一番最初に始末した人攫いたちがいた小屋を見つけた。 ちょっと前からここが気がかりだった。ここを拠点にしていた人攫いたちを始末してからしばらく時間があいていた。中に誰も住んでいないということが解れば、もしかしたら別の山賊たちがここを根城にしている可能性もあると考えていたのだ。だとしたら私の知らない場所でまた人攫いなんてゲスなことが行われているのかもしれない、と。 「お邪魔しまーす」 「……!?だ、誰だお前!!」 「お、お頭!女だ女!」 「何ィ!?よーしお前らそいつを捕まえろ!」 「わぁ荒い歓迎…」 臭くて汚い男が三人、刀を構えて私を睨みつけた。残念ながら今武器を持ち合わせていないので、首の骨を折ることしかできない。血を出せばここにたどり着いた忍たまの下級生たちがビックリするかもしれない。 小屋に飛び込み一番大きい体つきの、多分これが親玉かな。の、首をコキッと良い音を鳴らして折ると、体はドシャッと崩れ落ちた。 「ヒッ!」 「ば、化け物だ!」 「逃げるという選択は、ありませんので」 ズルズルと死体を引きずり押入れの中にしまった。やだ本当に臭いどうしようツラい。あとで土井先生に死体片してもらお。 さてどこに隠れようかなー、と、私は改めて小屋の屋根に上った。 ………ちょっと待てよ、今更だけど冷静になって考えろ私。 範囲が山の中なのに、山頂付近まで来ちゃいけなかったんじゃないの……!? 山頂に来るってことは四方八方に逃げ場があるけど、逆に考えたら四方八方を塞がれたら逃げ道がないってことじゃないの香織ちゃん………!!!! 「アァーーッッ!!これ完全に失敗した!!こりゃアカン!!!こりゃ捕まる!!ここ一番来ちゃアカン場所やーーーーーッッ!!!!!」 どうしようどうしようと頭を抱えてしゃがみこむと、ふわりと風が揺れた。 ふと顔を上げると、私の頭の枝に止まる体つきの良い大鷲が止まっていた。 「…」 「…」 「…」 「…」 『……どうしました?』 「!あ、そ、そうだ!き、君ちょっと力貸してよ!!」 そうだ忘れてた!!私動物系の能力者じゃん!!! ゴーン……― 「来たか」 「行くぞ」 「最初に捕まえるのは俺たちだ」 「じゃぁ作戦通りにね」 「…もそ…」 「いけいけどんどーん!!」 六年生たちが張り切って門をくぐって山へと消えた。次いで四年、三年、二年、じょろじょろと楽しそうに一年生も山へと駆け抜けて行った。 「三郎、僕らも行こうよ!」 「すまん雷蔵、もうちょっと勘ちゃんと作戦練っていくよ。今回は勘ちゃんと香織さんを狙いに行く」 「兵助とハチ達によろしく言っといて!」 「そう?解った!じゃぁ山で逢ったらよろしくね!」 雷蔵が私たちの部屋の天井裏から顔を引っ込ませ、気配を消した。多分今長屋に残っている忍たまは私と勘ちゃんだけ。 「……さてと、まず何処から攻める?」 「最初に香織さんがつぶしたのは裏山の山頂付近にある小屋の人攫いだと言っていた。それからしばらく期間があいてる。多分今あの小屋は使われていないから、新しい山賊が使っている可能性もある。多分、用心深い香織さんはまずそこに新しい山賊たちがいないか確認しに行くはずだ」 「ならその小屋を探そう。場所は解るのか?」 「確か…地図じゃこのあたりだと香織さんは…」 「じゃぁまずそこへ行ってみよう」 口を布で隠すように覆い各々得意武器を持って門へ向かう。小松田さんの出門表にサインをして、俺たちも山の麓へ向かった。 今回のこの鬼ごっこ。きっと本来の目的は、『傭兵として働いている香織さんの仕事を少しでも減らすこと』が目的だろうと私は考えた。 香織さんはここ最近事情を知っている私たちの処へ来ては「最近人殺しすぎてる気がする」とため息を吐いてもらしていった。傭兵として働いていることはもはや全校生徒が知っているであろう事実なのだが、こんな話出来るのは君たちだけだよと、庄左ヱ門と彦四郎がいないときに来ては愚痴をこぼしていった。 忍術学園が狙われているのか、はたまた戦が始まるのか解らないが、最近香織さんは『傭兵』としての仕事がかなり忙しいと仰っていた。学級委員長委員会としてこのことを実はこっそり学園長先生に私と勘ちゃんで相談していたことがあった。その矢先に起こった潮江先輩達六年生とのあの手合せというか、殺しあいというか。 きっと今回の目的は、香織さんを探しながら、香織さんと戦いながら、山に潜む山賊または人攫いを徹底的に駆除しろと言うことだろう。 これは香織さんの話を聞いていたから推理できたこと。多分、ほかの上級生たちは誰一人解っていないだろう。 …理解できてて、庄ちゃんぐらいかなぁ……。 「…っ!止まれ三郎!」 「勘ちゃん?」 山の麓に到着してすぐ、勘ちゃんは私の行く方向を手で制した。 其処は水が湧き出る給水所があるだけで、他には何もない場所だ。勘ちゃんは険しそうな顔をして、その小屋の向こうを見つめた。 「……香織さん、これはあまりにも俺たちをナメすぎているのでは?」 「なっ、!?」 「いやー、なんといいうますか……灯台下暗し?」 「…っ、香織さん!?」 勘ちゃんがニヤリと笑って、小屋の向こうへと声をかけた。すると、小屋の裏から香織さんの声が聞こえて来た。なんでこんなところにいるの。 「ずっと此処に?」 「面白かったよー、私はこんな場所にいるのにみーんな私の頭上を通り抜けて行くの。さらには作戦を話しながら行っちゃうもんだから」 「気付かれなくて寂しかったですか?」 「めっちゃさみしかった……!!気付いてくれてありがとう勘ちゃん…!!」 泣く真似をしながら、香織さんは小屋の裏から出てきた。うわ、本当に香織さんだ。 「良く気付いたね?」 「さすがに、上級生ですから?」 「それ六年生たちにも聞かせてあげたいわ」 「言ってやりたいですよ」 「香織さん、私はここで一戦したいところですけど、如何でしょうか?」 「おぉ三郎は殺る気満々で結構結構。それじゃぁ、誰よりも早くおっぱじめますか」 グッ…と拳を作り、香織さんは体を低く低く構えた。 勘ちゃんが素早く万力鎖を大きく振り回すと、香織さんはそのまま上空へ飛び上がった。 ……飛び上がったというか、飛んだ。 「は!?」 「なんですかそれ!?……ヤベェ見とれてる場合じゃ、ないっ!!」 「うほっ!三郎なにその手裏剣カッコいい!」 笑った香織さんは追うように私の投げたひょう力を、 バチンッ!と指を鳴らして飛ばした空気の弾のようなもので弾き返した。 「はぁーーーッッ!?」 「香織さん手裏剣投げました!?」 「残念だけど、今のは手裏剣じゃない。飛ぶ指銃"撥"だ」 強い強いと思っていたが、まさか、本当に、手も足も出ないだなんて。 「"海軍時代"に鍛えられたこの妙技、篤とご覧あれ」 ---------------------------------- オリジナルの技考えるの面倒なんで、 ルッチさんが使える技でいいと思ってます。 あと六式使いについては今後語ります。 あんまりツッこまないほうが勝ちです。 生温かい目でこの最強主見守ってください。 最強大好き。 (39/44) |