37.サバイバル

「は?鬼ごっこ、ですか?」

「そうじゃ!学年対抗鬼ごっこを開催する!」

「……え?それもしかして事務の私も巻き込まれているパターンですか?」

「鬼は忍たま全員で、香織殿は逃げる側じゃ!」

「アッー!」


土井先生が前に仰ってた。学園長先生の突然の思い付きとやらでたまに授業がつぶれて教科書が全然進まなくなることがある、と。これがそれなのか。

身体を洗ってもらっていた場所に土井先生が来た理由は、学園長さんが私のことをお探しになられているからということだった。存分に私の毛並みを満足した後、土井先生はハッと思いだし要件を告げた。それを伝えに来てくれたらしい。場所は気配を辿ってきたんだって。すげぇ。私前々から各地に散らばったは組の子たちの居場所を一発で突き止める土井先生は実は見聞色の覇気使えるんじゃないのかってずっと思ってる。あと伝子さんからは覇王色の覇気絶対出てる。

山のふもとまで庄ちゃんと彦にゃんを背に乗せて下山し、そこそこ急いで学園へ戻った。

入門表にサインを書いて学園長さんの部屋に行くと、待ってたぞと学園長さんは茶を出してくれた。学級委員の皆は部屋へ戻ったが、私の後ろには土井先生がついてきていたのだ。

一体何の用だと聞き、冒頭へ戻る。

どうやら学園長さんの思い付きで、突然鬼ごっこを開催することになったらしい。鬼は忍たま全員。逃げるのは、私。これなんて無理ゲー?

ゲームなんてデービーバックファイトしか思いつかなかった。まさかの鬼ごっこか。しかも逃げるの私だけとか学園長さんなに考えてるの?バカなの?死ぬの?


「あの、何故突然鬼ごっこなんか?」

「正しくは、"サバイバルバトル鬼ごっこ"じゃ!」

「さばいばるばとるおにごっこ…」


飲み干したお椀に、ヘムヘムが改めてお茶をついてくれた。
学園長さんの仰ることと意図が全く読めない。


「先日の香織殿と、潮江文次郎と七松小平太との手合せを見せてもらったのじゃが、やはり香織殿の腕はなかなか手強いようじゃのう!」
「…そりゃどうも」

「あの手合せ、かなりの人数の忍たまがあの場で目撃しておった。見ていないものがおっても、口伝えで確実に聞いているじゃろうて。そして先日血まみれで帰還された姿、あれも目撃されておる。香織殿がただの事務員でないということもバレておるじゃろう。ゆえに、香織殿と手合せを望むものも多いじゃろうて!」
「…は、はぁ」

「そこでじゃ!此度の鬼ごっこ、香織殿を捕まえた者のおる学年には、夏休みを一週間プラスすることに決めた!」

「わぉ、豪華な賞品ですねぇ。まさか私がダシにされてしまうとは」
「良い機会ではないか。これで、忍たまたちも己の力不足を再確認するじゃろうて」

「……まぁ、別に私は構いませんけども」


おぉそうかと嬉しそうに、学園長さんはお茶を啜った。

一度遊びで請け負ったデービーバックファイトにくらべれば、年下との鬼ごっこなんて軽いもんだろう。あのときは圧勝だったからなぁ。今回は40人以上vs私一人。こりゃ年下とはいえちょっと気合入れないと体力的にキツいかもしれないな。


「場所は?」
「裏山、および、裏々山までとする」


広範囲だなぁと肩を回すと、後ろから土井先生が「お言葉ですが」と、口を開いた。


「少々、危険なのではありませんか、学園長先生」

「ほう、何故じゃ土井先生」


「…最近は香織さんが夜の警護をしてくださっていて、死体が出た場合の始末は私がしています。…それが最近はあまりにも頻度が増しすぎている。何故ここまで裏山、裏々山に曲者や山賊たちが集結しているのか解りませんが、最近はあまりにも数が多い。戦が近いのか、はたまた、この学園が奇襲にあいかけているのか…」

「ほぅ」

「学園対抗ということは、一年生もやるということでよろしいですよね?なのでそれは少々危険かと思われますが、」

「……」


確かに、私がここに来た最初の方と比べると、最近なんだか殺している数が多い気がする。
忍者もいるし山賊もいるし、人攫いもたまにはいるけど、毎夜毎夜殺しては次の日になったら空になった小屋にまた別の山賊がいたりする。何かを探しているのだろうか。それか戦の準備かな。はたまた本当にここに襲撃をしかけているのか…。

前の頻度がどうだったのかは知らないけれど、最近敵が多い。銃は使えないので毎日刀の手入れをしなければならないほどに。最初はクソみたいな刀だとか思ってたけど、結構お世話になっている。そろそろ殺した山賊とかからかっぱらった金がかなりたまっているし、庄ちゃんたちに町に案内してもらって新しい刀でも新調しようかな。もっといいのありそうだし。


「いや、大丈夫じゃないですか?」
「香織さん?」

「彼らもあくまで忍者の卵なのでしょう?山賊の一組や二組殺せずしてどうするんです?」

「そ、それは」

「最悪逃げながら私が何とかしますよ。それに私もそろそろ太陽の下で思いっきり体動かしたいですし」


ん、と背を伸ばすとパキパキと背骨が鳴った。
まだ低学年だから殺しの授業はないとはいえ、いつかは通る道だろうし。関係ない私が言うのもあれだけど、小さいころになれていた方が後になって経験すると楽ですよ。と、経験者は語りますよ。


…小さい頃から、ねー。



「開始は?」

「明日の朝からにしようと思っておる!」

「じゃぁ私は開始前に山に隠れましょうか。ルールは?」


「ただ香織殿を捕まえる、それだけじゃ!そのためにはトラップを仕掛けるのも、武器を持つのも可としようと思うのじゃが、どうじゃ?」


「まぁいいでしょう。それでは私は手ぶらで行きましょうか。刀を使うようなこともないでししょうし」


小平太と当たらなければ、の、話だけど…。



「制限時間は」

「丸一日として、次の日の朝とする!」

「把握いたしました。それじゃぁ、私はこれにて失礼いたします」
「うむ!明日はよろしく頼みますぞ!」
「はーい」


立ち上がり学園長さんの部屋を後にした。

縁側から見える山を見上げ、私は大きくため息を吐いた。いやぁ、それにしてもここは山ひとつでかなりの大きさがあるのに、二つ分てことはかなりたくさん隠れる場所があるなぁ。
最悪虎の姿になってガオと吠えればみんな怖がって逃げるかな。木の上で昼寝しててもいいけど、きっと六年生なら気配で私の場所なんてすぐバレるかもしれない。見聞色の覇気の使い手がいたら怖い。明日は昼寝なんてしてる場合じゃないかもな。本気で逃げないと危ないかもー。

しかも武器の所持も可とは、ますます危ない。

手ぶらでも、まぁ体術には自信あしなんとかなるかなる、かな?




……今日は早く寝よう。





「香織さん!」

「やぁ勘ちゃん、さっきはどうもありがとうね」

「いえいえ、クラスメイトから聞きましたよ。鬼ごっこ、香織さんが逃げる側一人なんですってね?」
「みたいね。明日は勘ちゃんも敵ってことか」

「潮江先輩を負かした香織さんと手合せできるなんて光栄ですよ。明日は遠慮しませんからね?」
「だったら今から武器の手入れでもしておくんだね。丸腰の私に負けたんじゃ言い訳作れないよ?」


私と勘ちゃんは目線を合わせて嫌味を含んだような言い方でそういうと、同時にブッと吹き出した。




あー、明日は味方は誰もいないのかぁ。さみしいなぁ。

でも頑張ろう。




さーて、……………寝ようかな。
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