34.海賊の鼻唄

ヨホホホー ヨーホホーホー

      ヨホホホー ヨーホホーホー




ヨホホホー ヨーホホーホー


      ヨホホホー ヨーホホーホー




ビンクスの酒を 届けに行くよ

海風 気まかせ 波まかせ

潮の向こうで 夕日も騒ぐ

空にゃ 輪を描く 鳥の唄






懐かしい、唄を思い出した。

あれは毎晩のように酒を飲みまくる船員達が毎晩のように唄っていた唄。





さよなら港 つむぎの里よ

ドンと一丁唄お 船出の唄

金波銀波も しぶきにかえて

おれ達ゃゆくぞ 海の限り





大嫌いな唄だった。


海賊が大嫌いだったから、あんな唄聴きたくなかった。

私が捕まっていた海賊船で毎日のように聞かされた唄だったから。


パパの船に乗った初めの時も、いつだってあの唄が唄われていて

それを誰かが唄うたびに、私は部屋にこもって布団を被って泣いていた。

海賊なんて大嫌いで、海賊なんて全員死んでしまえばいいと思っていた。

だから、あんな唄耳に入れたくなかった。



「…香織?」

「出てって!」



いつもで無断で部屋に入ってくるエースも大嫌いだった。

海賊なんかに私の部屋に入ってきて欲しくなかった。


「せっかくの宴なのに、お前は参加しねぇのか?」
「出て行っていって言ってるでしょ!」
「おいおいそうカッカすんなよ」


刀を振り回すが其れもあっけなく火に飲み込まれた。

振り回す手をエースが掴んで、私はそのままベッドに投げ捨てられた。


「あんたも、私を汚すの」
「そんなことしねぇよ」
「だったなんで部屋に入ってきたの」
「…お前が寂しいんじゃねぇかと思って」
「…?」

エースが私から離れてベッドの下に座った。

持ってきた酒瓶をあけてグイとのみ、飲むか?と私に差し出した。私は首を横に振った。


「俺の本当の親はな、俺が生まれたときに母親が死んで、その後すぐにもうかたっぽも死んだんだよ」
「!」
「母親には恩があるけど、もう片方にはなんの感謝もねぇ。ま、これはちょっと言えねぇんだけどな」
「…」
「俺の中の母親はその人で、俺の父親は、あの宴の真ん中で馬鹿みてぇに酒かっ食らってるオヤジただ一人なんだよ」


外の月明かりが差し込む窓のほうをむくと、船員がみんな踊ったり飲んだり食べたり、好き放題していた。


「香織に親っていねぇのか?」
「……」
「…ま、別に話さなくていいけど」

「…いない……」
「!」

「……二人とも、海賊に…」



私はそこで、初めて此処まで生きてきた経緯をポツリポツリと話した。






ビンクスの酒を 届けにゆくよ

我ら海賊 海割ってく

波を枕に 寝ぐらは船よ

帆を旗に 蹴立てるのはドクロ







「…そりゃぁ、海賊が嫌いになるわな…」
「……ごめん…気分のいい、話じゃないよね…」


今までずっとつけられていた首輪の後はまだ消えない。
ナースの女の人たちによれば、あと一月もすれば綺麗になくなるらしい。


「ツラかったな」
「!」


気づいたら、エースに抱きしめられてて、

耳に聞こえたのは、あの忌々しい唄と、

エースの鼻をすする声。



「此処にいる俺達はもう家族だ。誰も死にゃしねぇし、誰もお前から離れはしねぇよ」

「……っ」

「良く、今まで頑張ったな」

「っ、…う、うゎああああああ!!」














嵐がきたぞ 千里の空に

波がおどるよ ドラムならせ

おくびょう風に 吹かれりゃ最後

明日の朝日が ないじゃなし

























ヘムヘムが頭突きする鐘に背を預け、刀に手を置いた。




「…ビンクスの酒を 届けにゆくよ


「!」




忍術学園の敷地内に入ってきたのは、三人。




今日か明日かと宵の夢



「誰だ…!」





忍者という存在がそうも大きい声を出してもいいものなのか。




手をふる影に もう会えないよ…」


柵に足をかけ刀を抜く。




何をくよくよ 明日も月夜……」


「いたぞ!あそこだ!」



柵を蹴り飛ばしふわりと其処から飛び降りた。

嗚呼まずい、ここは忍たま長屋の近く。




私の唄を頼りに、影は私の後を追ってきた。



山の中で足を止めフラリと身体を揺らす。





「…お前が噂の、」

「忍術学園の用心棒か」

「やはり噂は本当だったのか…」




忍刀を構える影が三つ、私を取り囲んだ。





「忍術学園の用心棒殿とお見受けする。我らの邪魔をするのであれば、容赦はせぬ…!」



「雑魚が」

「!?」


ヒュウと吹いた風に身を任せるように身体を浮かせ、
一瞬だけ刀を抜き斬り飛ぶ首を蹴り飛ばした。


「…3つ」




いつからこうやって何の迷いもなく人を斬れるようになったんだっけな。
と考えてしまうなんて、私の頭は呑気なもんだ。

目の前に広がる酷い状況は、きっと下級生のみんなには見せられないなぁ。





「んんんん〜……ん〜んん〜ん〜……」


「お帰りなさい」

「!」



山をくだり学園へと戻ると、門の上に立っていたのは声からして三郎だだと思う。顔が見えない。


「やぁ三郎。眠れないの?」

「いえ、なんか楽しそうな唄が聞こえてきたので、起きてみました」

「そっか。うるさくしてごめんね」

「いえこちらこそ。お手伝いできなくてすいませんでした」


此処から先へは出られないんですと言う。
その理由は、きっと小松田さんに追われるからだろうな。


「…おぉ、洒落た仮面だね」

「今、雷蔵の顔じゃないんですよ」


すっかり目が覚めたので顔を洗っている最中だったらしい。其処へ近づく私の気配。
三郎は急いで狐の仮面をつけたという。


「たまには、こんなのもいいでしょう?」

「すげぇいいよ。めっちゃ忍者っぽい」

「そしてこの月明かり。まさに香織さんが読んだ本の通りでしょう」

「やめて三郎今私めっちゃ興奮してる」


青白い月明かりが三郎の背中にあり、本で読んだ描写のようにめちゃめちゃカッコイイ光景が目の前に広がっていた。興奮しないわけがない。



「ねぇ香織さん、海賊ってどんな生活してるんですか?」

「ずっと自由だよ。ただ波に揺られて、飛んでくる鳥と戯れて、海を泳ぐ大きな生き物と心を交わして、食って、寝て、起きて、たまに戦って、宝を手に入れたら、宴をして…」

「…」









「…太陽の光を、一日中浴びてるんだ」












「…俺達と全く反対の存在ですね」



顔は見えずとも、寂しそうな声で。





「…三郎、私がお風呂から出たら、私の世界の話をしてあげようか」

「!」

「三郎がずっと気になってた"空島"の話。聞かせてあげようか」

「い、いいんですか!?」

「目、完全に覚めちゃったんでしょ?」

「ええ、そんなこと聞いたらもう寝れないですね」

「はは、じゃぁちょっとお風呂行って来るからさ、私の部屋で待っててよ。それともそっちに行こうか?」

「いえ、雷蔵が寝ているんで。もしよかったら勘ちゃんも連れてきていいですか?」

「もちろんいいとも。じゃ、後でね」

「お茶淹れて待ってますね!」




影を生きる君には私が光の下で生きてきた話をしてあげよう。

自由に生きている私達の話を聞かせてあげよう。










ビンクスの酒を届けにゆくよ

ドンと一丁唄お 海の唄

どうせ誰でも いつかはホネよ

果てなし あてなし 笑い話




















だから、私の影には触れないでね。
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