黒執事パロ
『あー、お茶、いいスか?』
「かしこまりました」
なんだこれ。
ソファーからぐだ、と顔を出し半目で先輩に告げる空夜ににこりと素敵な笑みを浮かべて請け負う先輩もとい悪魔で執事。
そしてこの状況に未だ慣れない俺。
いやなんだ、その。俺は今シェフだ。いやまあそこまでは良いんだが空夜・ファントムハイヴつう奴専属のシェフだ。…、おかしい、何か可笑しい。なんであの部員だったアイツがこんな豪邸にいるんだ。
んでもって何で俺がシェフなんてやってんだ。可笑しい可笑しい。とぶつぶつ呟いてると髪をおもいっきり引っ張られた。
「ッだだだだ!抜ける抜ける!!」
「っせえんだよ、カス」
「せ、先輩…!」
「さっさと仕事しやがれ、邪魔なんだよ」
さっきの空夜に向ける素晴らしい笑顔から一変、南極より冷たい表情で俺の頭をひっぱたく。
あまりの痛さに悶える俺を総無視でお茶を淹れる先輩。
その先輩も可笑しい要素の一つだ。
あ、何でもないス。俺が悪かったス。だからそんな風に睨まないでくださあああああい!
読心術まで解読した先輩には誰も適わないのだろう。
目から流れる水を塩水だと思いながらうなだれる。
『トモキさーん』
ソプラノのように高くはなくアルトのような声音にどき、と心臓が波を打つ。
前世と違い俺には名字がないから空夜は俺を名前で呼ぶ。う、うう嬉しいなんて思ってねえからなっ、良かっただなんて思ってねえからなっ、!
『ちょ、聞いてます?』
「あ、わ…」
グサッ
「お嬢様の話しをしっかり聞けよ屑」
ダラダラと俺の頭から流れる赤い液。床にぽたりぽたりと零れ落ちる。
「てめえのきたねえ血でお嬢様の屋敷が汚れんじゃねえか、さっさと拭きやがれ」
俺の額に刺さったフォークを先輩は無遠慮で抜く、そして俺の頭に激しい痛みが走る。痛みに悶える俺をスルーで このフォークもう使えねえな。とそのフォークをゴミ箱に捨てる俺にフォークをぶっ刺した張本人。
『か、カズさん…トモキさんのこれって…』
「ケチャップです」
『え、いや明らかにt』
「ケチャップです」
『いやいやいやいやいや、これはぜった』
「ケチャップです」
「いやケチャップじゃな」
「てめえは黙っとけや、ゴラ」
…………いや、今更だけどさ。この扱いの差なんて今更だろ、トモキ。
…ああ、慣れちまった自分が怖い。
「トモキさん、一緒に庭綺麗にしましょうよ」
肩をぽんと叩いて憐れみの目を向けてくるのはうねうね髪、もといワカメヘアーなアカヤ。
昔と違って色はオレンジのかかった金だが、
ワカメが金、て…。
「ぶふっ」
「……なに人の頭見て笑ってんだよ」
思わず吹き出してしまえば額に青筋を立てて怒ってしまった。
「仕方な、ブハッ。お、おま…髪が…っぶふ」
「潰す」
「てめえら潰されてえのか」
え、と思いながら2人揃って振り返ればフォークが俺の横を勢いよく通った。さらりと落ちる金、もとい髪。引きつる顔で先輩の方を見ればまるでダーツを楽しむような格好で俺達にナイフを向ける先輩。その斜め後ろでは我関せずとでもいうようにソファーでお茶を飲む空夜。
2本目を投げる格好をする先輩に俺達は引きつった声をあげた。そしてぷるぷる震える足で力の限り早く走り持ち場へと逃げた。