気怠そうに目を垂らしフェンスに凭れかかる空夜にジャッカルは苦笑を洩らした。ジャッカルの目の前ではデビル化寸前の赤也が試合をしている。そう、空夜は何かにつけ空夜に突っ掛かる赤也に「越前、見てろよ!この俺の試合を!!」と名指しされ直々に言われたのだ、しかし空夜はそれに生返事をしておきながら背を向けている。余程興味が無いのだろう、――それとも赤也の勝利を信じているのか。
ジャッカルの苦笑を受けながらも空夜は目を横に向ける。
『……………』
そこには試合をしている氷の自称王(キング)。試合相手は青学の曲者。5−3、部長相手に桃城もよく食らい付いたものだ。無感動の瞳には跡部のシュートが決まったのが映る。
「――…俺様の美技に酔いな!」
パチン、スポーツをしているとは思えない程白くしなやかな指を擦りあわせ鳴らした音。
それに空夜の瞳の色が無感動から呆れに変わった。
『…あれ、いい加減気持ち悪いって教えてあげたらどうです?』
「――…おい、越前。今なんか言ったか?」
『って、ジャッカル先輩が』
「あ、俺の専売特許…!」
「つうか言ってねえんだけど!?」
哀れジャッカル桑原。跡部の怒りに触れたのかスマッシュが飛んできた、しかし空夜はさっとそれを避け見事にジャッカルの顔面に当たった。ナイスコントロール。
「ジャッカルぅううううう!」
ブン太が駆け寄り倒れたジャッカルを抱き起こすもジャッカルの瞳はもう虚ろ。
「す、ま、ねぇ、ぶ、…た」
「ジャッカルぅううううう!」
『今ナチュラルにブタって言いましたよね、ジャッカル先輩』
「いや今のは仕方ないじゃろ」
「というかジャッカルくんは意外にボケもいけたんですね」
ジャッカルを労るのは只一人、それ以外の者は然程気にした様子もなく軽口を叩いている。
『でもマジな話しいい加減自重したらどうスか?ぶっちゃけそれ恥ずかしいスよ、端から聞いて。ねえ、忍足さん?』
「ちょ、俺に振らんといて!!」
無関係やん!!と首を振る忍足に構わずにこにこにこ。跡部はぶん、と忍足の方に振り向くと鬼気迫るような表情で忍足を見てくる。忍足はそんな事ないで!と思ってもない事を口にしようとするが空夜を見てハタ、と固まる。否、正しくは空夜が持つ【もの】を見て固まった。――空夜の手には美脚の写真。思わず生唾を呑み込む、流石変態。空夜がその写真を右に動かせば忍足の顔も右へ、左へ動かせばまた然り。にやり、空夜の唇が歪にゆがんだ。それを見た立海レギュラー陣は経験上何が起こるか察知をし空夜から素早く離れた、自分も巻き込まれてたまるか、と。
そして、空夜はその写真を上にあげ、下に、おろした。
「あ゙?」
そしたらどうだろうか、忍足の顔が上から下。つまり端から見たら頷いて見えるのだ、それに地を這ったような低い声を出したのは誰かは言うまでもない。
「ハッ、ちゃうねん!跡部!!これは空夜ちゃんが――!」
『人のせいにしたらいーけないんだ、いけないんだ』
「空夜ちゃんんんんんん!?」
「ファークッ!!」
「おぶふぁ!!」
まさか跡部の口からスラングの言葉が出るとは。
アッパーをかました事よりも、忍足が気絶した事よりも、其方の方が驚きなのか。これまた忍足に駆け寄るのは相方の向日ただ一人。しかしその向日も足で揺すり生死を確認するというなんという非情のやり方。哀れ忍足。
清々しい笑顔の空夜に立海レギュラー陣は直ぐ悟った。…コイツ、まだ遊び足りてないな。
関わりたくない立海レギュラー陣は
「みんな、コートに入れ」
「「イエッサー!」」
逃げた。柳の言葉にそそくさにコートに入っていた立海レギュラー陣。他二校は不思議そうにしているが後はしったこっちゃない。
『大体さ、跡部さんって美形だけど残念なんスよね。口振りとか性格とか、あ、それって外見以外全部じゃん。分け目がない黒子がない、総じてない。いらいらする、うざばーか!』
「テッメ…!」
『って、手塚さんが』
「ファッキュゥウウウ!」
「あぶへ!!」
「部長おおおおおおおおおお!」
もはや最後はただの悪口。突然の振りに驚くまもなく跡部の黄金の右手が唸った。部員が駆け寄る中不二一人は楽しそうに口元を緩めていた、流石としか言い様がない。
「ぐえ、!」
「…何やってんだテメェら」
「いやアンタが何やってんスか」
王(キング)ありまじき声に皆が振り向けば跡部が理不尽を具体化した人物に踏み潰されていた。そして的確な質問を投じた桃城に右ストレート。もはや何で!?の言葉は皆口にしなかった。
「ったく、テメェら。もう終めェだ」
「いや前橋先生、顧問でもなんでもないスよね?」
「さっき顧問の座はくそ後輩から奪ってきた」
「…そうスか」
もう何も言うまい。遠くで血塗れで倒れている人がいても何も言うまい。あれは景色だ、決して我らが顧問(仮)ではない、そう景色。
「おら、テメェらさっさと整備しろ。とんぼかけろ」
前橋の言葉に皆が返事をし散ろうとする、空夜も含み。しかしそれを許さなかったのは空夜バカ、前橋カズ。
「―…空夜は行く必要ねぇよ」
柔らかな微笑み、柔らかな声、それに空夜は遠慮気味に笑った。
『いや私も一応テニス部ですし』
「ダメだ、怪我したらどうする」
後片付けでどうやって怪我すんだよ、むしろ難しいから。その場に居たものは思わず口に出してしまいそうだったが頑張って呑み込んだ。
『――…いや、でも』
「アイツらが腕折ろうがのたれ死のうがどうでもいいが、――空夜に傷一つでもついたら死ぬ程辛ェ」
愛しい者を抱き締めるかのように後ろから包み込むと耳元で甘くささやく。
その場に居たものは思わず口にしそうになった。
どんな理不尽だ。
人で遊ぶのが好きなんです
(…哀れスね、アイツら)
(言うな、赤也)
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別館サイトにて10万の。
引っ張りだしもの、