「ったく、なんで俺がこんな事しないといけないんだよ」


ぐるり、軽く投げれば宙で回転して俺の手元に戻ってくる。
もう一度宙へ、ペットボトルを投げる。今度は苛立ちを混ぜて。

兄貴と認める事は一生ないと思う友紀に東京バナナを買って来いとわけがわかんない事を言われて東京まで来ている。
まあ俺が何のリスクも無しに友紀の命令を聞くわけもなくて、とりあえず交換条件としてハーゲンダッツ五つ奢ってもらう約束をした。


『あれ、山田先輩じゃないスか』

不意に聞こえた声に進んでた足が止まる。ぐるんとそちらに顔を向ければ予想外の人物が。

そして再び口を開いたと思ったらまたもや予想外の事を。

『山田先輩、デート、しませんか?』

言ってくれた。

にこり、とあまり良い予感はしない笑顔で。


「…西城だつーの」

返事の変わりに俺はお約束の言葉を述べた。












「本当にわけわかんねーよ」

『え、何がです?』

「何がです?じゃねーよ!んだこれ!」

『なんだこれ、て…わかんないスか?』

「うぜえええ!その顔うぜえええ!」

『やだなあ、褒めないでくださいよ』

「誉めてーよ」


やっぱ口ではコイツには勝てない、つうか勝てる日が来るとは思わない。痛む頭を抑えようとするも両手が塞がってる事に気付く。
そう、両の手には膨らんだ白いビニール袋。越前の手には鞄のみ。
なあ、これってよ。


ただの荷物持ちじゃねーか!!

『気のせいス』

「なわけあるかッ!!」


今にも荷物を放り投げそうな勢いで言っても「やれやれ」と小馬鹿にするように肩を竦める越前。ひくり、と頬が引き攣る。


セットされた髪にカジュアルの服の越前にときめいた俺がバカだった。つーか何越前なんかにときめいてんだ、俺。あほだろ。

自己嫌悪に浸りながら自分より幾分小さい相手を見下ろす。


……黙ってれば可愛いのに、黙ってれば、な。大事なことだから三度言っとく。黙ってれば。


『何か失礼な事思いませんでしたか?』

「まさか」


じとりとした薄黄色を澄ました顔で返す。それでもじととした双眸を向けてくる越前ににこりと笑う、が

『…なんスかその顔、きも…気持ち悪いです』

こ の 野 郎


コイツが女じゃなきゃ殴ってた絶対。つか殴っていいか?今にももう拳が動きたそうなんだが。
ぎり、と強く握り締めて再び笑みを無理矢理作る。表情筋が痙攣するけど無視だ。


「飯でも食いに行くか?」

『ああ、いいスね。どこ行きます?』

「あー…、無難にレストランとか?」

『なるほど、じゃ近くにレストランあるんで行きましょうか』



へらりと軽い笑みを浮かべる越前に俺もゆるく口角を上げる。
何頼むか、…やっぱ肉系か?あー、蕎麦とかも悪くないよな。んー…。


「越前は何たの…あれ」

越前はどんなものを頼もうとしているのかと尋ねようと横に居る筈の越前に顔を向けるもそこには越前はいなくて目を丸くしてしまう。すると数歩後ろに居た越前。


……あ、そうだった。越前は俺より小さい分歩幅も俺と違って小さい。なってないな、とどこからか友紀の声が聞こえた気がした。……うっせえつうの。


『先輩?』


眉を潜めて立ちずさんでいた俺を不審に思ったのかひょこりと顔を覗き込んで…て近っ!!


『……ちょ、どうかしました?』


バッと離れればまたそれが不審さを煽ったのか眉を寄せていた。俺はそっと目をそらしてヘアバンドに上げられた髪を軽く掻く。
そして左にあった荷物を右に持ち小さな手をそっと取り再び足を動かす。


『は、ちょ、先輩っ?』


素っ頓狂な声を上げる越前。きっとあの猫目を大きくして驚いてんだろ。見なくても分かる……つうか見れねえ、何でかわかんないけど見れない。顔に熱は昇るしよ、何でだ、…わけわかんねー、


「…さっさと行くぞ」

『………、はいス』


何故か汗ばむ掌。伝わってんじゃないかと不安になり誤魔化すように強く握る。
小さくて、白くて、細くて、――だけども俺よりも強い手。

握ってるとよくわかる努力の証。細いけど掌は決して柔らかくはない、努力の証が幾多もあって、硬い。

女としたらあまり良いものじゃないかもしれないが俺はこの手が好きだ、と思った。

確かに柔らかい方が良いかもしれない、男にはない女特有の手の柔らかさ。あれを心地よく思う男も沢山居ると思う。越前の手を握ってもその柔らかさなんてちっとも感じないが――俺はやっぱこの手が良い。

どんな手より綺麗だと思った。


――突然、ぎゅう、と握り返された手に目を見開く。一方的に握ってた筈なのに、

バッと振り返り緑色の人物を視界に入れば得意気に口端を持ち上げていた。


『顔、赤いス』

「――っ、うっせーよ、ばーか」


ああ、もう何でどきどきすんなよ。わけわかんねー、…ほんとわけわかんねー。止まれよ心臓。



×××


カランコロンと独特の音を奏でながら扉。


「いらっしゃいませー、二名様で宜しいでしょうか?」

「はい、二人で」


愛想笑いを振りまく女性にこくりと頷いて案内されるがままに続く。…未だ、越前とは手を繋いでる。いや離す機会もないし座るまで離さなくていい気がするしよ。どこか言い訳じみた言葉で言い聞かせながら席に座る。

そして自然に離れた手と手。
温もりが無くなった自分の掌を見つめる。

………寂しい…?
何で寂しいんだ?あれか?さっきまで繋いでたから急になくなって温もりが恋しい、とか。

……わけがわからない感情に苛まれる。ぐるぐるぐるぐる、と。


『い、…せん、…い』

「…………」

『先輩!』

「あ、?」

『あ、じゃないスよ。さっきから何度も話しかけても反応ないですし、どうかしました?』


バカは風邪引かないらしいんで風邪の線をないですけど。と相も変わらず減らず口を叩く越前。…この毒舌というか生意気加減になれちまった自分が怖い。


『もう今日は終わります?荷物持…デート取り止めて』

今、荷物持ちつったろ

まさか


白々しいぐらいに不思議そうにする越前。…ああ、もう今更だぜ、俺。なれろ、つかまずあの嫌な予感しか沸かせない笑顔を浮かべてた時点でちゃーんと考えればこいつの魂胆なんて丸見えだった筈。


「あー、じゃあ俺はこれで」

『あ、じゃ私はこれとパフェで』


メニュー表を指差すほっそりとして白く長い指。先ほどまでこの指が、手が、自分の手を握っていたんだ、と考えるとどくん、と心臓が大きく脈打った。

え、あ?な、なんだ…発作か?えや、俺心臓病なんて患ってないし。

頭の上に沢山の疑問符を飛ばす俺を余所に呼び出し音を押す越前。ピンポーン、店に鳴り響く音を感じながら先までの発作らしきものについて考えるのをやめた。


「メニューがお決まりでしょうか」

『っす、先輩確かこれスよね?』

「え、あ、ああ」

『これと、これを一つずつとこのパフェ一つ下さい』

「只今デザートはカップルで来られたお客様にはお安くなっております、」

『あ、じゃあ…それ――』

はあっ?!


淡々と続く言葉を聞いていたが店員の言葉にハタリと固まる。気にした様子を見せず続けようとする越前に、店員が発した言葉に、ガタリと大きな音を起てて立ち上がってしまった。

四つの視線が俺へと向けられる。猫目には若干呆れが混じっている、が


『…なんスか、先輩』

「っいやいやいや!カップルじゃないんで!だ、だから…!」

『はっ、な!ちょ…!』


今度は越前が音を起てて立ち上がった。しかし店員は状況を確認したのがメニューの繰り返しをするとそそくさとキッチンに戻って行った。

はあ、と頭を抑えて大きな溜め息を吐く越前。


『…ほんと、何してくれんスか』

「嘘は駄目だ」

『アンタ何時からそんな真面目に』

「……前からだ」

『嘘吐け』


いつもとは真逆な掛け合いを耳にしながら訳が分からない気持ちを誤魔化すかのように携帯を手にする。


『あ、先輩』


カチカチ、携帯のボタンを押す音が二人の間に鳴り響く。


「なんだよ、」


返事をしながらメールの返事もする。


『今更スけど、その恰好、格好良いスね――似合ってますよ』


「は、」と間抜けた声とともに携帯が手から滑り落ちる。開いたままの携帯の中心を軸にぐるぐると回る。

まるで今の俺の気持ちのようにぐるぐる回る。



『なあにやってんスか』


「はい、」と手渡される携帯。しかし、それを受け取る気にはなれなくて、

ぐるぐるぐるぐるぐるぐる、

よく分からない感情が渦巻く。


頭が沸騰しそうなぐらい熱く、血が逆流して、心臓が尋常ないぐらい速く脈打って、


な、んだこれ、

この感情の名前を、
(誰でもいいから教えてくれ、)

(ぐるぐるぐるぐる)


――――――――
別館サイトにて10万の。
引っ張りだしもの、


  


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