※(一応)ホラー
…とは言ったものの。
『…1人で来るんじゃなかったかも‥』
暗い校舎に少しだけ身震い。
いや、私だって一応女だ。……自分で一応って言っててなんか悲しいな。
まあ私も女。幽霊とかが怖くないと言ったら嘘になる。いやまあ長年生きてる分普通の女や先輩たちよりはそういう類は怖くないが、むしろ冷めてるね。…今更とか言うなこの野郎。
しかし、
『……さすがに1人だと怖いんだよね』
二ノ宮さん辺りは別段怖くなかった。しかし校舎に入ると、…その、うん。だって誰も居ない筈なのにうふふとか聞こえんだよ!?
さすがに怖いわ!!!
きゅっと手を強く握りしめる。…三階まで行って教室に行くだけ。
大丈夫、大丈夫。
自分に暗示をするように呟く。
歩くたびにスリッパの音がいやに響く。
歩くのに躊躇するが怯えてばかりじゃ前に進めない。そうだよ、私があれを手にすれば誰も(怒られる事に)怖がることはなく平和になる。そしてあれをあの人に渡せばみんな傷つかずにすむ…!!
(※プリントをとりに行くだけの話しです。)
コツン、コツン、
階段を登るたびに響く。
誰も居ない校舎にはその音しか聞こえない。
コツン、コツン、コツン、
一段、また一段と、階段を登る。
コツン、コツン、……ぺた
―――階段を登る足が止まった。
その音に、素足で歩いたような音に。
っ、
バッと振り返るがそこには誰もいなく、
悪寒が背筋を奔る。
コツン、ぺた、コツン、ぺた、
私の歩む音と交互に聞こえるそれ、
まるで私の後を追うように聞こえるそれ、
階段を登る足が早くなるのがわかる。
コツン、コツン、コツン、コツン
ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、
私が早くなればあちらも早くなる。
階段を走ればあちらの音もまた走るような音が響き、
ぺたっぺたっぺたっぺたッぺたッッ
階段を登りおりた所でバッと再び振り返る。…しかしそこにはやはり誰もいなく、………て。
―――思わずゴクリと息を呑んだ。
全体の鏡があるそこには白いを通り越した蒼白い肌。顔を覆い隠すようなボサボサの黒髪の長い髪の人が映っていて。…その唯一見える口端は三日月に歪んでいて、
――見えないはずの目と目が…カチリ、と合った気がした。
『――ひっ』
引きつった声が静かな廊下に響いた。
走る走る、震える体を精一杯動かし走る。足がもつれても立て直して走る。
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
すぐ後ろにはその音があって、振り向かなくても分かる。――追い掛けられてる事ぐらい。
冷や汗が流れるなか視界に入った教室に入る。小刻みに震える指でカチャリと鍵を締め。
『ッ、はあっ、はっ…ッ』
荒らぐ息とともにずるりとドアにそって崩れ落ちる。
部活でもこんなに走った覚えはないよ。一生分は走った気がする。
…ぶっちゃけもう歩く気も力もない。
ガタガタと小刻みに震える体。手を強く握っても止まらない、止まることを知らないように。
あー…、今日はここで泊まりかな。つかもう一生学校来たくない…はは。
恐怖心を抑えるため笑ってみるが笑えない。
自分の体をぎゅっと抱きうずくまる。
落ち着かせようと深呼吸をした時―――
ドンドンドン!!
…凭れていたドアが揺れた。バッと顔をあげればその小窓から蒼白い肌の女の唇が私に向けてニタリと不気味に笑んでいた。
『―――ッ』
恐怖で声がでないとはこの事だろう。
逃げようにも腰がぬけて動けない。
もう終わりかと思い視界を塞ぐようにぎゅ、と目を閉じた、ら
「邪魔」
聞き慣れた心地のよい低い声が聞こえた。
ぎゃああああ、とうめき声が静かな廊下に響く。ガタンと勢いよく何かが壊れる音ともにふわりと私の鼻をかすめる大好きな匂い。
「…やっぱりここにいたか、――空夜」
くしゃりと大きくて温かい手が私の髪を撫でる。ゆっくりと睫毛を震わせながら前を見ればそこには綺麗な綺麗な藍色の瞳があった。
『…な、んで……』
「ちょっとアイツらに会って空夜がいねえからアイツらに聞いたら学校に行ったつうからよ、(アイツら半殺しにして)こっちに来た」
心配した…、と私をぎゅっとまるで壊れものを扱うように優しく抱き締めてくれ、て。それに目を少し見開くがすぐに目の前が霞むように歪む。
ぎゅ、と…カズ先生の服を弱くつかむ。カズ先生の肩口に顔埋める、カズ先生のシャツしめてしまう…。
……あとで謝らなきゃ、な。
『か、ず先生…、今だけはこうしていいですか、?』
「…今と言わずいつまでもこうしてやるよ」
『ッはい…っ』
恐怖からの解放からか、安堵から、か…それとも――――、涙溢れる、止まらない。