IF恋人


『わあ、凄い人スね』

「…ああ、だな」


空夜の言葉に小さく返事をする前橋。前橋はとてつもなく苛ついていた。現来人混みや五月蝿い者を得意としない寧ろ嫌う前橋。今すぐに目の前の奴らを抹消したい気持ちに駆けられながらも空夜の前で苛ついた様子を見せるわけにはいかない。それ故引きつった笑みを見せる。それに気付いた空夜はくすりと静かに笑みを溢した。



『さっさとやって帰りましょうか』

「…いや、それは遠慮しとく」

『え、』

「…一緒にいてえから、これぐらい我慢できる」


ほわ、とピンク色のオーラがそこだけに広がるのは本人たちは気付いているのか。周りの者は目を擦ったりしている。そして列に並べば着々と進んでいく。

空夜たちの番になれば一礼し鈴を鳴らし拍手を二つした。暫くの間二人には沈黙が続く。何を願掛けしているのか、二人とも瞳を閉じ真剣のようだ。


再び礼をし自然に、至極当然のように二人は互いに手を伸ばし重ね合う。


『先生は何願ったんスか?』

「何だと思う?」

『…全然見当尽きませんね』

「じゃあ秘密だ」

『なんスかそれー、教えてくださいよ』

「そういう空夜はどうなんだよ」

『…秘密ス』

「んだよそれ」


互いに顔を合わせてぷっと揃いに吹き出す。二人の熱さはこの寒さも吹き飛ばしそうな勢いだ。


ふと前橋の視界に入ったカラフルな髪色。あ゙、と前橋のコメカミに十字路が立った。まだ空夜はそれに気付いてない。


今から飛び蹴りしてシバいてやろうかと、何とも理不尽すぎる思考に耽るが今はそんな事して空夜との時間を削るわけにはいけない、とその思考を一旦離す。まずその思考が間違ってると分かっているのか否か。


はあ、と息を吐けば青い空に白い靄が混じる。まるで雲のように。二人はそっと寄り添う。



「なんか欲しいもんあるか?」

『いや、特にないスね』

「本当に?」

『…ええ、今はこうしていたいス』



繋がる手が強くなるのを感じ強く握り返す。互いが離れないように、

屋台に行くわけでもなく賑わう中に入るわけでもなく。

二人は互い以外の人物をシャットアウト。互いに会話もなく、静かな空間が二人にはまた心地良いのだ、互いでなければ思えない思い。


二人は互いの温もりを寒い冬の中感じ合っていた。いつまでも重なりゆく影。



重なる手。
((いつまでも一緒にいられますように、))


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別館サイトにて10万。
引っ張りだしもの、


 


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