半ば自棄な感じで諭吉さんを二人貰った。まあ、私が欲しいシューズは神奈川のアッシュというお店にしかない。ちなみに私はそこの常連客。そんなに大きくはないけどそこの店長が凄くいい人な上にいいものばっか揃えていてリピーターは後を絶えない。



ハードコート用のシューズは3つ程ある。けど、クレーコートとオムニコート用のシューズがぼろぼろになってしまった。ハードコート用のシューズも結構使うけど一番はクレーコートやオムニコート用のシューズ。オールコートのシューズなんて問題外だ。
無難にミッドカットに行くか、それともローカットでいくか悩んだ末、ローカットで。やっぱ足の負担は軽い方がいいじゃん?それにアイツがローカットの方がいいっつうから。

そんな時アッシュで見つけた格好いいローカットのシューズ。うん、これは買うしかない、というわけで度々親父に強請っていたらお金をくれた。いいお父サンだ。



というわけで


「『ウォンクのBください』」

『……………………』

「……………………」

あれ、誰かと被ったような。横を見ればばちり、と視線が絡み合う。


「…………………」

『………………』

「お、お前は…っ!」

『あ、あんたは…!









誰でしたっけ』

ズルッ、とどこぞの漫画のように滑り転けるもじゃ。どうやったらそんな転け方できるんだ。


「お、お前…!昨日の今日で先輩の顔忘れてんじゃねえよ!!」

『ごめんなさい、あまりにも印象が濃いから忘れてました』

「…おい、何に話し掛けてんだ。印象濃いって髪の事じゃねえだろうな?」

『昨日ぶりス、今日も綺麗にうねってますね。もじゃ也さん。』

「それ髪!!俺の大半は髪の毛なのかよっ!?」

『……………』

「違うの、みてえな顔すんじゃねえっ!!!」


綺麗にうねる髪の毛を見ながら喋っていればツッコミの嵐。…まだまだだね。うちの親父ならもっと的確なツッコミができるよ。



「あー…っと、赤也に空夜。ウォンクのBは今一つしかなくてな」

『だったら私にください』

「いやそこは先輩に譲るところだろ」

『もじゃってる人を先輩とは言いません』

「よーし、表に出やがれ」


胸ぐらをつかれて真面目な顔で返せば額に青筋を浮かべるもじゃさん。短気は損気スよ。


「大体なぁ、俺は一ヶ月前からあれを狙ってたんだよ!!」

『はん、私は二ヶ月前から狙ってましたよ』

「ぁあ゙!?だったら俺は四ヶ月前から…!」

『やっぱり五ヶ月前から』

「じゃあ俺は半年前からだ!」

『ふ、甘いスね。私は一年前か――』

「お前ら、そんな前からこのシューズ出してないから」

あっちが言えばこっちがこう言う。そんなのを繰り返していれば店長さんがため息を吐いた。しかしそれさえ気にせず私たちは続ける。


『私あのフィット感がたまんないスよ!』

「俺もだ!あのフィット感に軽さ、一本足でのスプリット・ステップん時には絶対いい!」

『わかりますわかります、あんだけ軽いとやりやすいですよね。ローカットにしては機動力もありますし』

「そうそう、ちょっと値が張るけどな」


「……お前ら、他の客の邪魔だ」

人目を憚らず語り合っていればひょいっと首根っこを掴まれて抵抗する間もなく外へと追い出された。ついでに何かを投げつけてきた、私は上手く受け止めたがもじゃさんは顔面キャッチという高度な技で受け止めた。

「もう俺のもやるからお前らしばらく来るな」

バッとお金だけをかっ攫われてぴしゃん、とドアを閉められた。


「………………」

『………………アンタのせいだよ』

「あぁ゙!?人のせいにすんじゃねえ!!」

『明らかにアンタのせいっしょ!!!』

この10分語店長さんが「うるせえ!!」と怒ったのは言うまでもない。



出会いました
(あー、うん。もう、)


―――――――― next




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