渦巻く雲は灰白色。
そのなかで神様が泣いていた。
小粒の雫がボタボタ、ボタボタと、傘に弾かれて地面に落ちる。
跳ね返りで足が濡れるが、ナマエは気にする様子もなくそこに立ち尽くしていた。
視線の先には男が一人、屋根もない潰れた雑貨店の店先に背中を丸めて座っている。
ナマエはその男に見覚えがあった。
勤め先であるパオパオカフェの常連、テリー・ボガードだ。
あの体格のよさと服装も相まって目立つから、会話したことはないがよく覚えている。
が、そこにいる彼はあの底抜けの明るさなど見る影もなかった。
何か有ったんだろうか。
赤の他人の私が、とも思ったがやっぱり気になってしまい、声をかけることにする。

「あの、どうしたんですか?こんなところで」
「…あんたは、リチャードのとこの」
「ナマエです。」
ナマエは、顔を覚えられていたことに驚きながらも彼の方に傘を傾けた。
気休め程度にはなるだろう。

「風邪引いちゃいますよ」
「そんなに柔じゃないさ」

無理やり口角を上げながら言ったテリーに、ナマエはなんだか悲しくなった。
この人は多分、強い自分以外を許してあげられないんだろう。
いろんな感情をひたすら隠して隠して、殺して殺して、それでも耐えきれなくなったら人目を避けて泣いている。なんて悲しい。

「テリーさん、無理に笑わないでください。」

ナマエは水溜まりも気にせずその場に膝をついた。
目線の高さが同じになる。
無意識に触れたテリーの腕はいつから雨にさらされているのか以上に冷たい。
傘はかたかた回りながら役目を放棄した。
ワンピースは水分を吸ってだんだんと重くなる。
自分でもどうしてここまでしているのか、ナマエにも理解できなかった。
当のテリーは目を丸くして固まっている。
なんの反応もできずにいれば、少女の小さくか細い手が見た目に反して力強くテリーの頭をかき抱いた。
女性しか持ち得ない暖かさと柔らかさが、ささくれだつテリーの心にじんわり染みていく。
不覚にも、雨粒ではない雫が頬を伝う。

「参ったな…」

彼もまたすがり付くようにナマエの肩に腕を回した。


雨は止まない。





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