生まれて初めて異性というものを好きになった。
某ラノベ風に言えば、こいつのガキを産みたいと思った。
生まれてこの方恋どころか異性に興味すらなく、長年真性の同性愛者と疑われてきたこの私が、だ。
それを聞いた舞は、ここがKOF参加者の集まるラウンジだというのもお構い無しに立ち上がって大声で騒ぎ立てる。
背の高いカウンターの向こうでマスターも苦笑いだ。
「うっそ誰よ!今年の参加者のなかにいるわけ?…まさか、アンディじゃないでしょうね、アンディは渡さないわよ!」
「アンディではないから落ち着いてよ…」
「本当でしょうね」
「私が嘘をつけないの、知ってるでしょ」
「…まぁ、信じるわ。一応ね。」
ふん、と鼻息荒く腰を落ち着けた彼女はグラスを煽った。
一気に静まり返ったフロアに小さくなった氷が踊るカラカラという音が響く。
間接照明で雰囲気作られた室内には私たち以外にも客がいるというのに、誰かの呼吸さえ聞き取れそうなほど静まり返っていた。
聞き耳を立てられているような錯覚に陥って耳の裏がぞわりと鳥肌だつ。
舞は現状に気づいていないのかそれとも気にしていないのか、一気に捲し立てた。
彼女の口はまさにマシンガンだ。
「このタイミングってことは毎年顔をあわせてる連中じゃぁないわよね、新人…中国の武神とか?なんか骨太そーでいかにもあんた好きそうだわもの。いや、もう一人のほう?なんてったっけ、えーと、デュオロンだったかしら。なんか妙に色気あんのよねー美形すぎてちょっとひいちゃうくらい」
「いや、あの、舞」
「ジョンも二年ぶりに会ったわよね。いや大穴でグリフォンマスク?!はないかさすがに。あとはー…」
「その話、僕にもチャンスが有るのかナ」
肩を軽く叩かれ、かけられた言葉にドキッとした。
年のわりには落ち着いた声でBonSoir、と挨拶をしたその人は流れるように私の隣の席に座りフランスの白、シャトー・ドワジー・ヴェドリーヌを頼んだ。
舞は話の腰を折られたのが気にくわなかったのかすぐさま食って掛かる。
「ちょっと、あんたみたいなガキの出る幕はないわよ」
「なんでそんなこと分かるの。もしかしたら、もしかするかもしれないじゃない?ネェ」
「名前も言ってやんなさい、あんたみたいなヒヨッ子眼中に無いってね」
にこやかな彼と、鬼の形相の舞にサンドイッチされた私は困り果てる。
なんせ私は、嘘がつけない。
左右から刺さるような視線に晒されて顔を上げられなかった。
返答を急かすように舞の肘が飛んでくる。
うつ向いたまましぶしぶ口を開いた。
「の、ノーコメントで…」
「?!」
「フフ、残念だったねマドモアゼル。今回はボクの勝ちだよ。邪魔者は消えてくれる?馬に蹴られる前にサ」
「っあとで詳しく聞かせなさいよ!」
何よ私だってアンディと…!と叫びながら彼女は店を飛び出していった。
薄暗い店内でもよく顔が見える距離に彼──アッシュ・クリムゾン──がいる。
眠たげな瞼の奥の瞳が綺麗なアクアグレイだって事さえ、初めて気がついた。
こんなにじっくり顔を見たことは一度も無かったかもしれない。
まつげが長い。そばかすが案外多い、けれどそれがまた愛嬌があった。
「名前サン、だっけ。」
「は、ぃ」
「アハハ、なにそんなに固くなってるの?リラックスリラックス」
ダメだ、この感じは弄ばれてる。
恋愛のれの字も知らない私ですらその色は感じられた。
「それで、名前は夜をボクにくれるの?」
丸いワイングラスに注がれた貴腐ワインの甘く爛れた薫りが鼻孔をくすぐる。
黒と白で飾られた指先がカウンターの上で無防備だった手を捉えた。
次の瞬間、逃れられない。そう思った。
「行こっか」

「…お手柔らかにお願いします」
「ん〜、考えとくネ」

夜は、長い。







7/28
別にセクシャルな話しか書けない訳ではないデスヨ。
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