近年進行する地球温暖化の影響は、ここフランスも例外なく進行している。
二、三年前ならまだ悠々と過ごせた朝も最近はカーテンの下から差し込む日にすら耐え切れない。刺さるような鋭さだ。
いつもはさらりと肌触りの良いシーツも、それほど長くない髪も、肌に張り付いて気持ちが悪かった。
今すぐベッドを飛び出してバスルームに駆け込みたいほど暑い、熱い。
背中に密着するそれが鬱々とした気分を助長させていた。
腰に腕を回し抱き込むような体制の彼は暑くないんだろうか、素朴な疑問だ。
無意味だろうが(起きていようがいまいが、私の言うことを聞くような人じゃないし)腰のあたりにある手の甲を叩いたり、軽く爪を立ててみたりする。
「アッシュ、あつい、よ」
「ふふ、そうだネ」
珍しく素直に帰ってきた声ははっきりとしていた。
寝起きじゃないとしたら、いつからこうしていたんだ。私なら2秒で飛び起きてる。
「なら離してよぉ・・・」
「ヤダ」
「やだじゃなくって」
「ボクとこうしてるの、イヤ?」
「イヤじゃない、けど」
「ならいいじゃない。もう少しだけ」
にわかに腕の力が強くなった。
うなじあたりに鼻っ面を押し付けて甘えるしぐさは可愛い。
普段のふてぶてしさが信じられないくらい可愛い。
こういうところがあるからアッシュと居るのはやめられないんだ。半分くらい中毒。
しかしあげて下げるって言うんだろうか。
アッシュは自分の優位を示すように肩口に歯を立てた。心を見透かされているのはいつものこと。
それがわりと痛い。甘噛みと本気の中間くらいだろうか。
反射的にばたばたと足を動かしても、絡めとられてそのうちそれを享受することになる。
しばらく肩からうなじから肩甲骨にいたるまで好き勝手にした彼は満足したのかいきなりベッドから立ち上がった。
朝っぱらからひどい目にあった。
きっと人目を憚るくらい跡になっているだろう。
「ホラ、早く起きて、バスルームいこ。」
手を引かれる。が、ちょっと動きたくない気分だと体重をベッドに預けていると不敵な笑みがかえってきた。
「それとも、続きシたいの?」
歪められた口元に矯正器具が光る様子が無償に好きだ、とぼんやり思いながら、「バスルームだってスるくせに。」
「わかってるじゃない。なら、ボクの言うコト聞いたほうが良いのも知ってるでしょ?」
酷くされたいなら別だけど。
アッシュの低い声が脳内に反響していた。
頭がぼーっとしているのは、暑さのせいだということにしておこう。
全部、暑い朝が悪いのだと。






7/28
即興小説のアレンジでした。
お題は暑い朝。ちょうど朝だったのでわりとスムーズに書けたような。
リハビリの一環です。
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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