デイダラ | ナノ




物心つくころから私の視界には奴がいた。親のいない私たちは土影さまのもとでそれはもう厳しく育てられ、ことあるごとに喧嘩しては責任を押し付けあい頭にげんこつを食らったものだ。口を開けば口喧嘩、こんなにムカついてしょうがないなら離れたほうがマシだと思いつつ今日も今日とて奴はうっかり隣にいる。同じ商品に手を伸ばそうとしたまま数秒睨み合ったあと悪態を吐き出すべく私は小さく黒い空気を吸い込んだ。

「なんであんたがここにいんの」
「てめーこそなんでオイラが行くとこ行くとこに現れんだよコラ」
「あ?あんたが私の真似してんでしょ散れよストーカー」
「ブス」
「くたばれ」

ほのぼのとしたかわいらしい店の空気が一瞬で淀んで火花がばちばち飛び交った。店長と思わしきおっさんが眉をハの字にしてあたふたしてるのが視界の端に映り、目の前の腹立つ顔に唾を飛ばしたい衝動をぐっと押さえてわざとらしく足音を立ててファンシーなドアをくぐる。やなやつやなやつ!折角黒ツチからかわいいお店を教えてもらったのに。るんるん気分が台無しだ。折角、折角、この私が、奴のために、誕生日プレゼントを、送ろうとしたのに!実は黒ツチから照れ臭いから一緒にプレゼント渡そうと頼まれていたから仕方なく、し か た な く 物色してたのに。まさか当人にでくわすとは思わなかった。いつもの条件反射と謎の気恥ずかしさからついついあのような衝動的な失態を犯してしまった。不覚。いつものことだけど。

「あーもう雑草とかでいいかな」

ぶちぶちと腹の中のやりきれない奇妙なむずかゆさに襲われながら適当にそこらへんの花を抜く。ほら、野に咲く花は人を爽やかにも和やかにもするし。そんな風に僕たちも生きていけたら素晴らしい。るるる〜と鼻歌交じりに花を抜いていると、後ろに見知った気配を感じて振り返る。

「…お前…なにやってんだ、うん」
「…ガーデニング」
「はあ?」
「てかまたストーカーですか?やめていただけません?おまわりさーん」
「てめっやめろよ!うん!」

本当にストーカーなのかどうか疑いたくなるほど奴は金魚の糞のように私の近くにいた。自分で認めたくはないけどもしかしたら思考回路がびっくりするくらい一緒なのかもしれない。だからぶつかる。厄介なものだ。

「はい」
「は?」
「今日誕生日でしょ」
「……」
「底辺なあんたには申し分ないくらいのプレゼントでしょ」
「………」

怒りで我を忘れてるのかしら。いいよ怒り狂いたまえ私をブスだと言った罪は大きい。貴様の誕生日に最高の泥を塗ってやるわ!ずいと差し出した花を払いのけるかと思いきやしおらしく受け取ったものだからあれっと拍子抜けして顔をおそるおそる覗きこむと、

「………ありがと」

視線を斜めにずらしてまさかまさかの小さな呟きを溢す。しかも、頬が、赤い?

「……えっ」
「…お前が…なんか…オイラにくれるなんて思わなかった…うん」
「………えっ!」
「…嫌われてるって…思って…たから…」
「なっ…えっ…」

柄にもなくぼそぼそと呟いてる言葉の羅列に、みるみるうちにじわじわ顔に熱が集まっていく。なに、これ、恥ずかしい。

「ちちちがうから!私はあれだよ!黒ツチに一緒に渡そうって頼まれたからであってその!別に!あの!!」
「黒ツチからは赤ツチと一緒にもらったぞ、うん」
「は…」




はめられた、と気付いた時には私はマッハ5で地面を蹴りあげていた。






を 込 め て 花 束 を !
(っうわああああっっっ)(ちょ、転ぶぞ!うん!)(っっいったああああ)(……これだから目ぇ離せねえんだよ!馬鹿!)

110505
デイハピバ!
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