イタチ | ナノ




ひとりきりの私の部屋にある日違和感の塊がやってきた。そいつはなんの前触れもなく私の、確かにカギをかけていたはずのドアをがちゃがちゃがちゃりと開けて、無遠慮に部屋に入り、さも当たり前のように私のお気に入りのソファーにふてぶてしく腰かける。泥棒か。変態なのか。万が一そんな時のために私の部屋には木刀が置いてあるのだけど、それに手を伸ばす気も、ましてや焦る気も沸き上がらなかった。手口が華麗すぎた。

「あの」
「なんだ」
「誰ですかあなた」
「俺は俺だが」

あなた頭大丈夫?と言いたいのはこちらのはずなのに逆にお前頭大丈夫?みたいな顔で見られてしまった。なにこの状況。呆気にとられていると男はテーブルの上にあった茶菓子をびりびりと開け口に頬張る。

「いやいやいや」
「ふまいなほれ」

むぐむぐと口を動かす男は更に私が見ていたドラマからバラエティーに変える始末。突っ込みどころがありすぎてついていけない。とりあえず、とりあえずだ。自分自身を落ち着かせるために湯を沸かして茶を飲むことにする。「俺も」と三つ目の菓子に手をつけながらご注文なさってくる男にだんだん腹がたってきた。誰だお前は。わざとらしく目の前に音をたてて茶碗を出すと、すまない、と言いつつずずず、とそのお茶を飲む。私も熱いお茶をぐっと飲み下す。案の定蒸せった私をそいつは横目で見ながらふっと意味深に笑った。完璧馬鹿にされてる。

「あんたいったいな」
「未来からきた」
「…………は?」

ちくたくちくたく。時計の音と茶を啜る音だけが間抜けに響く。こいつ……とんでもない電波ちゃんだ!

「え、帰ってください」
「えー」
「えーじゃねえよ」

見た目は黙ってれば物凄く綺麗で頭が良さそうな人なのに煎餅で膨らんだほっぺのお陰で単なるアホ面に成り下がっている。今こそ我が木刀がうねりをあげる時なのかそうなのか。

「仮にあなたが未来からきたとしますよ、」
「ああ」
「私は誰と結婚していつどんな死に方するとかわかるわけですよね」
「ああ」
「じゃあ言ってみてくださいよ」
「それは言えない」
「はあ?」

お茶をことりと置いていよいよ不信感を露にし出した私に、真っ直ぐ視線を向けられる。不覚にも心臓が一瞬だけぼよんと飛び跳ねた。

「例えばお前があと3日後に車に轢かれて死ぬとする。それを知ったお前は3日後家から出ない。極僅かだがそれによって少しずつ歯車が狂って、のちにすべての未来が崩れだす。ありもしない事が起きたりいたはずの人間が消えたり」
「じゃあなんであなた未来からわざわざこちらにいらっしゃったのですか」

饒舌に喋り終えて疲れたのかお茶に口付けゆっくり飲み下した。本当に黙っていれば綺麗な人だと思う。

「お前に会いにきた、ただそれだけだ」

何を考えているかわからない無表情がその時ふっと和らいだ。







ガタッ。よく言う崖から落ちる夢を見て飛び起きるように目が覚めて、はっと周りを見渡すと部屋は早朝のしんとした青い空気に包まれていた。どうやら夢を見ていたらしい。よくは覚えてないけど奇妙な夢だった。ふうと息を吐き寝返りを打ち、隣で安らかに寝息を立てる温かい体にぎゅうとしがみついた。


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