飛段 | ナノ
※吸血鬼パロ




私は幽霊や未確認生命体の類いを信じない。何故なら自分の目に見えないから信じるにも信じようがないからだ。もしもここで宇宙人が窓をノックしようものなら私はその事実を受け止めるしかない。いくら信じられないものでも目の前に現れたら信じるしかないのだ、例えレプティリアンでも、目玉が主体な親父でも。

「よォ!今日も会いにきたぜェ!」
「……今何時だと思ってるの…」

満月を背にして非常識な来客が私の部屋の窓をバンバン叩いて声をあげる。絶賛近所迷惑中なこの男は吸血鬼である。実にシンプルに片付けてしまったけれど吸血鬼なのである。理由はわからないけどこいつが自分は吸血鬼だと言うから吸血鬼なのだ。世界ってそういうものだ。これ以上ご近所さんの迷惑になるのは気が引けたので開けろー開けろーと楽しそうに言っている男の前に立ちしぶしぶ自分とこいつの間を隔てているものを開けた。

「会いたかったぜ!」
「私は会いたくなかったむしろあんたと会ったことをなかったことにしたい」

無遠慮な男は更に無遠慮に私の髪をぐちゃぐちゃに乱暴に撫でて豪快に笑う。どうして私はこの現代でこのお伽噺のような存在と出会ってしまったのか、未だに考え出すと頭が痛い。偶然という言葉にすべてを預けるにはこいつの存在は重すぎる。いい意味じゃないほうで。こんな時間に…とか仮にも私は女なんだから…という常識は存在が非常識である男に通用するわけもなく、満月の晩じゃなくてもたまにこうして私の前に現れては戯れて帰っていく。所謂暇潰しなのだろう。一体毎日をどのように過ごしているのか疑問で仕方ないけど頭が痛くなるだけなので考えるのはやめておこう。

「あー喉が乾いた」
「トマトジュース飲めば」
「なあ」
「嫌だ」
「血吸わせて」
「いーやーだ」
「一口だけ!」
「くたばれ」

何そのヤらせて!ね!一回だけ!ちゃんとゴムつけるから!みたいなノリ。出会った時の成り行き上思わぬ形で血を舐められたことから奴は執拗に私の血を催促する。本能むき出しで求められたことがないのは幸いだけど。というか無理矢理襲われたらこうして会うこともできないだろう。接した感じでは知能はそこまで高くはないと思うのだけどそこはどうやら理解しているらしい。

「他の血にしなよ。もっとかわいい子のほうが美味しいよ、知らないけど」
「お前がいーの」
「どうして」
「好きだからに決まってるじゃねェか」
「……、」

単細胞だからこそできる直球である。つい口ごもってしまうとす、とごく自然にすくった髪に口付けられ抱き締められる。あ、ヤバい、と思った時にはもう遅い、視界がぐらりと反転して背中に軽い衝撃が走り重いものがのし掛かる。心臓が破裂しそうだった。

「いーい?」
「…や、だってば」
「いただきます」

ご丁寧な挨拶は馬鹿にしているようにも聞こえた。首筋に吐息がかかってぺろりと生温かい舌がゆっくり這った。

「いっ、…っ」

ぷつ、という音と鋭い痛みは同時だった。そこからじゅるじゅると音がなる。首筋が熱い、痛い。ぐらりと視界が揺れ目の前の体にしがみついた。

「…っ、ぃ、痛、い」
「……、」
「も、やめ、」

精一杯に背中に爪を立てると最後にべろっと舌がいやらしく這って唇が離れた。ぐらぐら。めまいがする。

「あん、た…一口だけ、って…」
「悪ィムラッときた」
「、は」

目の前で赤い唇がニタリと弧を描いて突拍子もなくそれで唇を塞がれた。思うように抵抗出来ないまま舌が無遠慮に入ってきたのでその舌を噛む。ちょっと本気で。調子に乗った顔が僅かに歪んでやっとのことで唇が離れた。口の中に鉄の味が膨らんで不快だ。

「…ぁあああ好きだぁあ」
「変態」
「俺いつかお前のこと殺しちまいそう」

またそういう、可能性が十分に高いことをさらりと言う。やめてよね、私にはこれからの人生というものがあるんだから。そのシナリオにもうあんたの名前は入っているのかもしれないけど。

悪かったよ、と叱られた犬のような声を出して首の傷口に軽く口付ける仕草が愛しいだなんて思ってしまう私は、もう、こいつに何かを食われているのかもしれない。


(朝日がのぼる頃にはそいつは颯爽と夜と一緒に何処かに消えていく、全く不可解で信じられない、本当にあった愉快な話だ。)

110402
途中でテンションあがってヒャホーイっとなったのがバレバレですね
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