サソリ | ナノ


ぐんぐん競り上がる衝動、奥を刺激するじれったい感触、出るか、出ないか、早く、して。もどかしい。私は理性を突き放して天を仰いで大きく息を吸い込んだ。ああ、これで私はこのくぐもった苦しみから解放される。じわじわと終焉への階段をのぼる。声が、溢れ出す。私という人としての存在は今、惨めな獣の姿に成り果てる───

「ふ…っ」
「、ぁ」
「ぁああああっくしょい!!!!」

飛び散る飛沫。透明な粘液は鯨の潮吹きに似た勢いで辺りを蹂躙し「汚ェ!」容赦のない拳が私の頭にクリティカルヒットした。

「痛ああっくしょいい!!!」
「もう出てけテメェ」

サソリさんの人形のような(実際人形なのだが)綺麗な瞳の瞳孔が開いてらっしゃる。辺りを見渡せばけして片付いているとは言えない部屋に散らかる傀儡の上にぬらぬら光るものが。そう、私の唾と鼻水である。

「ずみまぜん」
「しね」
「ひいい」

それはもう般若のごとく恐ろしい顔で突き付けられているのはヒルコの尻尾。丁度メンテナンス中だったらしい。

「すみませんすみません私サソリさんに用があってきたんです!」
「帰れ」
「ひどい」
「…ああ?」
「(こわい)サソリさん薬の調合もできるんですよね!」
「……」
「こ…この私…こんなぼろ雑巾のごとく惨めで汚らわしい私めにですね…花粉症に効く薬を処方してくださいすみませんん、はっ、サ、カナクション!!!」

私だってこんなおそろしい場所きとうなかった!!しかし今年の飛散する悪魔の粉は強力で、隠密行動はおろか視界もかゆみと涙で滲みそれはもう任務に支障をきたしているのである。以前くしゃみを解き放った瞬間にイタチさんに出くわしてしまった。あの綺麗な顔に唾を飛ばしてしまったと同時にこれ以上ないくらいに獣のような不細工な顔を晒してしまったことにより本気でハラキリを覚悟したのは記憶に新しい。そこで、私はこのままではいけない、もし同じようなことを繰り返したら出家確定(=丸刈り)だと覚悟してこの結論に至ったのである。

「い…一番いいのを頼む!…ます!」
「一番いいのはないさっさとしね」
「えっ」

ちょっとどやって顔したような気がするけど気のせいかな。とにもかくにもこうも拒否されてしまっては仕方あるまい。明日にでも隣町のドラッグストアに変装して行くか…と肩を落として部屋を出ていこうとするとカツン、頭に小気味いい音が響く。石でも投げられたのかと振り向くと、足元には悪意の塊ではなく小さな容器が落ちていた。

「これは…」
「毒だ」
「死ねと」
「ククッ」

呆然である。人間ここまで潔く切り倒されるといっそ気持ちいいということを学びました。

「目薬」
「…え」
「手元にあった」
「え」
「どうした使わねえのか」
「あ…ありがたく使わさせていただきます!では失礼し」
「ここで使え」
「はい?」

うわ、気持ちいい顔。とんでもなく楽しんでる顔だこれ。

「いっいえいえ私のような存在がいつまでもサソリさんの部屋に存在していい筈がなく」
「ああ?」
「ごめんなさい」

見た目はかわいらしいのになんたる覇気…か、体が動かない!しぶしぶきゅぽんと薬のキャップを開ける。本当に毒だったらどうしよう。垂らした瞬間ジュッ!とかいったらどうしよう嫌だ怖い。ちらっとサソリさんの方を盗みみると僅かに、僅かに楽しそうに目が輝いているように見える。あやしすぎることこの上ない。

「あ、あのすみません私目薬刺せない派なんです」
「…は?」
「迫り来る水滴とかおそろしすぎて瞼ぴくぴくして本当残念な顔になるんであの」

サソリさんの顔が怖いから斜め下の方向を見つめながら早口に言うと痺れを切らしたのかサソリさんが近付いてきた。殺られる?

「すみませんすみません指先につけて目玉ぐりぐりするん、で、?」

私の指から目薬を奪う、それをサソリさんが口に含む、きれいな顔がぐっと近づく。…ほんの一瞬の出来事だった。反射的に閉じた私の有能なまぶたの間からぬるっとしたものが滑り込んだ。

「、ぇ」

舌先で撫でたあと小さく音を立てて離れていったものがまるで計算されたようにきれいに弧を描いた。

「ッ!!?」

今、何された、絶対普段人がされないことされた、え、何、え、今、え!?状況が理解できずに(おそらくこれからも理解できない)あたふたしている私に飽いたのか当事者はくるりと背を向け何事もなかったように作業に戻った。

ガタガタッと騒々しい音を立てて部屋をあとにした私の視界はこれ以上ないくらいに爽やかだった。



(こんなの絶対おかしいよ!)
110325
なんぞこれ
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