飛段 | ナノ


※グロ注意!




















「信用できねえなあ」
「今俺を殺してみろよ」
「好き、ならできるだろー?」
「俺は死なないから心配すんな」
「ほら、さっさとしろ」



頬に降りかかる温かい水、立ちこめる鉄の匂い、ぐしゃり、反芻する肌が肉が裂ける感覚。赤に染まった視界が左右に揺れぐるぐると回りだす。気持ち悪い。何もかもが、気持ち悪い。手のひらで抑え込んだ唇から、込みあげた吐瀉物がぼたりぼたりと指の間からこぼれ落ちた。平衡感覚が根こそぎ失われ私の体はぐらり後方に揺れてそのまま赤い地面にどさりと倒れこんだ。

人を殺した。この手で命を奪った。はじめてのさつじん。顔中からざわざわと血の気が失せ、奥歯がガチガチと不揃いな音楽を作り出す。そこに横たわるモノとは対照的に激しく脈打つ心臓。苦しい、怖い、くさい、気持ち悪い。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…

「…上出来じゃねぇの」

むくり。今までモノだったものがゆらゆらと起き上がる。自らの体内にあった赤い水にまみれながら、彼は愉快ににやりと笑った。

「…ひ、だ」
「あーあー、泣くなよ」
「ごめ、う、うぇ、っ」

露出した赤い塊から溢れだすおびただしい色に恐怖さえ感じる。目眩。こんなに大量の血を目にしたこともなかった。それを他でもない自分の腕が作り出したという紛れもない事実がおそろしくて仕方がない。

「やっぱ…こ、わい、よ…」
「どんどんよくなるって…ほら」

力強い指が、ぐいと私の手首をつかんで自分の腹へと引き寄せる。ぐさり、ぐさり、振動と共に溢れだす水が、私の手を真っ赤に染めていく。

「ひ、いや、ぁ…!飛、段、離し、」
「…ぁあ、痛ぇ…!くく、」
「ふ、っ、え…」
「っあー…たまんねえ…、」

唇と唇が触れてしまいそうなくらいに目の前にある顔が、汗と涙と唇から溢れだした血でぐちゃぐちゃになっている。歪んだ顔は、どこか快感の色さえも伺える。まるで理解できない、考えもしないような常軌を逸した光景が、段々私の頭を侵して「普通」へと塗り替えていく。つい昨日までの「平和」が、赤く染まって非日常へ消えていく。

「ひっ、ひだ、ん」
「俺のこと」

よりいっそう私の手首が力強く引き寄せられる。ぐちゃ、刃物を握る指が温かいものに包まれた。熱い吐息が顔に降りかかった。

「好き、なんだろ…?」
「…う、」
「なら俺と一緒にこの平和ボケした里を抜けようぜ」

麻痺する頭がうまく活動してくれない。ひとつひとつを整理する猶予も与えられず垂れ流しの涙をべろり、ゆっくり生温かい舌が掬いあげた。

「そして俺と一緒にジャシン様に身を捧げるんだ。ああ、俺は最高にお前を幸せな女にすることができる」
「、聞…いて、」
「愛してるぜ…」

唇からこぼれかけた言葉は真っ赤な唇に塞がれてしまった。口内に広がる味が、もう不快なものだと感じられない。自分の意思もなにもかもが赤い海に溺れていった。





この生温かい地表はどれほど僕達のためにやさしくあるのでしょうか
(彼の体内に沈む指は、とっくのとうにふやけてしまった)


110211

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -