イタチ | ナノ




きれいだ。それは花や鳥など生きている存在としても美しいし静を保つ動かない物としても美しい。動かない体。伏せられた睫毛。生きているの?興味本意でそっと指を伸ばし首に触れると指先に伝わるあたたかな温度とあたたかな鼓動。自分の腕の中でゆっくり開かれた黒い瞳に自分がぼんやり映る。ああ、きれいだ。

「…なにをしてる」
「死んでるのかと思った」

寝顔というより死に顔に近い顔を晒していた彼はうたた寝というより永久の眠りについているようだった。それでも何故か不安を感じなかったのは彼がそう易々と死ぬはずがないという自信があるからなのかはたまた彼が生きているとは思えないからなのか。どちらにせよ、やはりこうして彼の生を確認できることは嬉しいことだ。もっと、もっとそれを肌で感じたい。今度は両手で細い首を包む。横たわる身体に無遠慮に覆い被さる私の背中を猫か何かのようにやさしく撫でる指がいとおしい。ぐ、と軽く力を込めるとふたつの親指に伝わる鼓動。どくどく、感じるたびに、ああ、私は幸せなんだなと客観的に思う。げほ、彼が小さく苦しそうに呻いてそこで鼓動を感じたいがために力を込めすぎていたことに気付いた。ごめんなさい。私の心の声でも聞こえたのか彼は大丈夫だと言わんばかりにやさしい手のひらで頭を撫でてくれる。それがあまりに心地いいものだからまぶたが重くなってしまった。力を抜いて、体を彼に預けてみる。心臓がうんと近くで動いている。ああなんて安心するんだろう。この音がすき。あたたかい。

「ねえ、いつまでこの音は続くの?」

頭を支配するこの音が永遠に続くものだとは思えない。けれど続いて欲しいとは思った。だからこんなにくだらない質問をしたんだなあ。彼はなんて答えたんだっけ。もう何も思い出せない。まるでそれが癖のように、あまり好きじゃない顔できれいに笑ったような気がする



私を構成していた世界から音が消えた。なにも聞こえない。耳を塞ぎたくなるような静寂。どこを探してもなにも見つからない。あの時触れた彼の音と同じようにあたたかい自分のそれにそっと触れてみる。それはどうしようもないくらいに無意味であまりにも価値のないものだった。


110211
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