イタチ | ナノ


「死んじゃえ」

吐き捨てた言葉がぐさりと音をたてて突き刺さるように、彼の瞳が悲しそうに揺れた。ざまあみろ。嫌い嫌い大嫌い。すまない、と消えるように呟く声に私の中で再び苛立ちの感情が奮いあがった。いっそ突き放してくれればいいのに。半端な優しさなんていらないの。少しくれるなら全部欲しいと思ってしまう私の傲慢さに嫌気がさす。本当は側にいてほしいのに、そう思えば思うほどいなくなった時の寂しさが苦しくて仕方がない。それならいっそ放っておいて欲しい。それはそれで胸が張り裂けるほど苦しいだろうけど今より幾分かマシだろう。伏せられた睫毛が綺麗で、どうしたらいいのだろうかと悩む瞳がいとおしいのもまた事実。私は彼を困らせることしか出来ない。…あの女なら彼を笑顔にするのは容易いのに。

「…死んじゃえ」
「…お前が泣いているのに放ってはおけない」
「余計なお世話」

あんたなんか不幸になればいいのに。嘘、そうじゃない、大好きだからこそ幸せになって欲しい、のに、違う誰かと愛しそうに笑う彼を見ているとどうしようもなく苦しくなって、胸の辺りがぎゅうってなって息が上手に出来なくなって、黒い感情がぐるぐる頭を巡って支配する。苦しい、苦しい、でも、この私の気持ちを彼はどうもしようがなくて、私も彼が私に何かをすることを望んではいない。だって本当にどうすることもできなかった。私逹は、家族。血がつながっていなくても、兄妹、なのだから。

「…お前のことが大切だ」

知ってる。聞きたくない。大切だと思われれば思われるほど苦しくなる。私が大人になればいい?我慢すればいい?いつまで我慢したらこの感情から解放されるの?

あなたが、すきだ

違う、大好きな人の幸せを願えない、エゴにまみれた最低な人間を大切だと思ってくれるあなたが好きだ。じゃあ、私を嫌うあなたも好きなのだろうか。…あーあ、結局私は私が好きなんだ。そんな自分が好きな私が嫌いだ。それを、

「…泣くな」

優しく抱き締めてしまうあなたが大嫌いだ。



(すき、すき、だいすき)
(どこにもいかないで)
(ずっと側にいてよ)
(兄さん、)



まるで本当に大切そうに抱き締める腕の中で必死に必死に飲み下した言葉を、仮に吐き出してしまったらどうなるのだろう。



やはり私は、彼を困らすことしか出来ないようだ。





絶望の夙夜
(助けて、)



101227
男として兄を愛してる妹とそれ以上の感情で妹を大切にしてる兄。
リクエストありがとうございました!
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