イタチ | ナノ




覆い被さった私の下で虚ろにこちらを見つめている瞳の色に気付き、あ、またやってしまったとふと我に返る。僅かに露出した首筋にぞくりと興奮し衝動に駆られるままにその白い首筋に歯を立てていた。がぶり。とろり。口の中に広がる鉄の味。彼の、身体を巡っていた赤い水。私の味覚はこれを"美味しいもの"だと判断する。不味いわけがない、こんなに美しい人間の体内にあったものなのだから。喉がもっとと要求し、じゅるりとその液体を啜ると僅かに息を吐く音が聞こえた。いつまでも舐めていたいと催促する唇を離し、彼の表情を見ると僅かに眉を潜めるも、やはり色のない顔で私をぼんやりと見つめていた。ふふ、笑みを溢し、血と唾液にまみれた傷口を指でなぞってみる。彼はぴくりとその顔を歪め、少しだけ呻き声を漏らした。ぞくぞく、なんて色気がある声なんだ。もっとその声を聞かせてほしい。ぐりぐりと指先を埋めると眉を寄せ瞳をぎゅっと閉じる。伏せられた睫毛のなんという美しさ。すべてがいとおしい。堪らなくなって私はうっとりと感嘆の声をあげた。

「ああ好きだよイタチ」
「…、…っ」
「好き、好き、大好き」

とろとろと溢れる液体が指先を赤に染める。勿体ない、ぺろりと指先に舌を這わせもう一度赤く染まった首筋に口付けを落とした。穏やかに髪を撫でる指がすき、だから離れていかないように手枷で閉じ込めた。彼の優しい声がすき、だから誰にも聞かせないように声帯を壊した。それでもそれでも足りない。困ったことにエスカレートする私の行動を彼は穏やかに笑って許してしまう。ならば、遠慮なく。人間としてのルールやモラルさえも障害だという私の愛情が彼という存在を締め付ける。嫌だと一言さえ、やめろとひとつ首を振りさえすれば歯止めがきいたのに。ここまでくると、どこまで彼が私の愛情に答えてくれるのか純粋に疑問に思った。そのきれいな顔を殴る、背中に傷をつける、無我夢中で行動を起こしたあとにこれはどう?と彼の顔を覗くと決まって彼はにこりと笑うのだ。逆にどうすれば私を嫌ってくれるのだろう、考えれば考えるほど笑いと愛しさが込み上げてくる。

「ねえ、まだ私のこと嫌いにならないの」

こくり。僅かに首を縦に振る。楽しいなあ楽しいなあ!けらけらと笑う私に対して彼もふふ、と笑みを浮かべる。大好き!綺麗に弧を描いた唇をぺろりと舐めゆっくりと舌と舌を交じり合わせる。ガリ、とその舌に歯を立てれば口に広がる甘美な味。どうしてこんなに美味しいのだろう。きっと他の部分も美味しいんだろうな、だってだあいすきな彼の身体なんだもの。

「私、幸せだよ」
「これからもずっと一緒にいようね」
「大好きだよ」

ぎゅ、と骨と皮だけの体にしがみつくとじゃらりと音を立てながら私の体を彼の腕がぎゅっと抱き締めた。幸せ。




(愛し方って人それぞれだなあ)


101206
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