デイダラ | ナノ




あーおもしろくねえ。急に変な奴等がゾロゾロと現れたものだからオイラの崇高なる芸術をお披露目してやったのにも関わらずそれを鼻で笑われた(きっと美的センスに乏しい奴等なんだ)あげくたかが人間ごときを自分が認めなくても五感が美しいと認めてしまうだなんて。そうして半ば強制的にこんな辺境に連れてこられたわけだが。すかした顔をしてやがる奴ガタイがいい奴どんな姿勢で歩いてるか不思議で堪らない奴どいつもこいつも根暗根暗。面白くねえ。

「ガキ」
「…なんだよ、うん」
「テメェなんて死んでも構わねえが一応俺の相方になる予定だから言っておく」
「…」
「ここにいる全員がビンゴブックに乗っているということを忘れるな」

それだけ言い捨てて得体の知れない男は不気味な音を立てて去っていった。偉そうに。その後ろ姿を一睨みし探索がてらぶらぶらとしばらくアジト内を歩いていると正面から人が歩いてくる。薄暗いため表情こそは見えないがその小柄な体型からすると女だろう。こんな陰鬱なところに女がいるとは正直意外だった。ひとつひとつ近付くも、女はまるで興味がないように自分に目もくれずに毅然と歩いていく。自分の中でも知らずと植え付けられている男尊女卑精神に油断したのか、面白半分で声をかけてみた。

「おい女」

ぴたり、と女の足が止まる。ゆっくりと振り向いたその顔は、不服そうなしかめっ面。なんだ、この組織はお高く止まっている奴ばかりなのか。

「…ああ新人の。」

さほど興味が無さそうにぼそりと呟き、話は終わりというように視線を反らし再び歩き出す。…面白くない。

「おい待てよ」
「…、」
「あんたも指名手配人なのかい」

細い腕を掴み無理矢理こちらに振り向かせる。僅かに目を見開いた女が次にどう反応するか楽しみだったが、予想に反して女は今までの仏頂面から一転、ふわりと穏やかに微笑んでみせたのだ。呆気にとられていると次の瞬間、体に衝撃が加わり、気付けば女から3、4メートル離れた所まで吹っ飛ばされていた。オイラの芸術顔負けの一瞬の出来事だった。自分の体は女の細い足に蹴り飛ばされたのだと気付いた頃には腹がもげるような鈍痛。なんて脚力してやがる。

「…な、にしやが」
「おいクソガキ」

先程の男と同じ言葉の筈なのに自分の耳にはやけに低く響いた。立派にドスが利いている。立ち上がれないオイラの胸ぐらを掴む顔はあくまで笑顔。笑顔なはずなのに鬼にも般若にも見えた。

「は、離…せ…」
「口の利き方を教えてやるよ」
「…は、」
「…殺してやろうか」
「すみません」
「聞こえない」
「すみません!!」

え、なにこの展開。汗がだらだらと流れる。今まで自分で認めるくらいに好き勝手やってきた人生の中で初めての直接的な恐怖体験だった。じじいの怒鳴り声よりも遥かに怖かった。隠すつもりなどさらさらないような盛大な舌打ちをかまし胸ぐらを掴んでいた手を離しポイと地面にオイラの体を投げ捨て何事もなく去っていく。何が起きたか理解できずに尻餅をつきながらぽかんとしていると女は再びおもむろに振り向いた。反射的に身が凍張った。

「…あなた、名前は?」

先程の巻き舌とはまたもや一転して静かに穏やかに問いかけられた言葉に自分でも情けないくらいしどろもどろになりながら答えると、女はオイラの名前を復唱し、「よろしく」とにこりと笑ってみせた。







オイラの恋の始まりだった。



厄日
101129
なんぞこれ。
続くかもしれない!
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