マダラ | ナノ





大きな背中。動くたびに揺れる長い髪。じーっと見つめていると何かインスピレーションを感じたのか、くるりとこちらに顔を向ける。それと同時に反射的に自分も顔を反らしてしまった。にやりと男がからかうように笑うのが空気で伝わった。

「お前」
「別に」
「今俺のこと見てただろう」
「別に」
「いや見てた」
「見てないっす」
「…可愛いやつだな!」
「ギャー!セクハラ!離れろおっさん!!」

ガバッと効果音がつきそうな音を立て私にしがみつきあげくの果てに頬擦りしてくるこの変…こほん、この男は実はこの忍界を窮地に陥れようと目論むなんだか凄い人らしいけれど私にしてみれば単なるおちゃらけたおっさんだった。そもそも巷でこの男がどんなに恐ろしい存在だと噂になっても私はこの男のそういった真面目な姿を見たことがない。ゆえに私の頭はおちゃらけセクハラ親父としてインプット完了済みである。セクハラといってもこいつは私を猫か何かのようにめで、スキンシップを行っているだけのようだが(過剰であることにはかわりない)

「おっさん」
「おじさまと呼べ。せめて」
「今度は何すんの」
「酒池肉林を築く」
「えっ」
「えっ」
「…冗談きついわ」
「軽い冗談だ」
「本当にやりそう」
「ふふ」

わしゃわしゃと髪が乱れるのも厭わずに頭を乱暴に撫でられる。正直九尾を木の葉に解き放っちゃった事件の主犯はこの男かもしれないという噂はにわかに信じがたい話である。ふらりと風のように現れては忽然と姿を消す。まるで野良猫のような存在だと思っているのは私だけなのかもしれないけれど。

「ねえ、おっさんの夢って何」
「世界征服」

またもやニタリといやらしい顔で笑う。しかし、一瞬だけ、ほんの一瞬だけその瞳が野心を秘めてギラリと光ったのを私は気のせいだと飲み込んでおこう。そうしている間に日は西に落ちる。太陽と共にこの男はどこかの国へと沈んでしまう。誰そ彼。もしこの愉快な男が夜の訪れと共に暗い色に変貌していくとしたら、私はこのどうしようもなく愛しいと感じた時間を上手に誤魔化すことができるのだろうか。

「そろそろアバンチュールの時間だ。お前もそろそろー…」

本当は嘘だとわかっている。この男は今夜もたくさんの人を傷付けるのだと気付いている。それでもぺちゃくちゃとくだらない話をし、ぐしゃっと頭を撫でる手が温かくて、どうしようもなくすきだと思ってしまった。無意識に男の袖を掴んだ右手が情けなく震える。その震えを抑えるかのように包まれた体温はやはり温かいものだった。

「…お前は本当に俺のことがすきだな」
「それはない」
「……ふふ」
「いつまでも子ども扱いすんのね」
「まだまだ子どもだろう」
「子どもだって汚いものは知ってるよ」
「…」
「本当はおっさん悪い人なんでしょ」
「…ふ、どうだろう?」
「連れてってよ」
「……いつか、おじさんと世界でも巡ろうか」
「うん」

ぽん。いつものように頭を撫で、いつものように風になって消えてしまった。しかし男はいつものように再び私の前に現れることは二度となかった。その夜、木の葉の名だたる一族が一夜にして滅んだらしい。あそこで頷いたのは私なりの精一杯の背伸びだった。グルグル廻る彼の膨大な運命の歯車の中、ほんの一瞬だけでも私という存在があればいいなあ。





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