サソリ | ナノ



嘘だ嘘だ嘘だ。涙と血に濡れた砂に顔を押し付けられながらも、同じく少し離れた砂の上に横たわる何よりも尊い人間に、僅かな希望を託すもその人はぴくりとも動かず、じわりじわりと白い砂を赤黒く染め上げていく。自由がまるで効かない身体を僅かに動かし、目の前に立っている小さな子どもに恨みと憎しみを込めて睨みつけると、子どもは感情のない顔で笑って私の頭を踏みにじる。

「な、んで、お前が」
「欲しかったからだよ」

血と吐瀉物でむせ返る喉を必死に震わし言葉を紡ぐと、あまりにも当然だというような声色が降ってきたものだから問いかけるように子どもを見やると、今まで見せていた愛嬌のある、純粋な笑顔とはまるで違う、野望と物欲にまみれた笑みを浮かべ、満足そうに離れた場所で地に伏せるあのお方、三代目風影に視線を向けながら言う。

「風影サマと、ついでにあんたという材料が」
「騙してた、というの」

風影様は幼き頃に戦で両親を亡くした、俯いて何も話さないこの子どもにご自身のチャクラで楽しませたり笑わせたりして、まるで我が子のようにかわいがっていらした。その様子は本当に微笑ましいもので、この子どもが忍の任務に就いてもその仲睦まじい関係は変わらず、もしかしたら次の風影を担うのはこの子どもかもしれないと傍らで思っていたこともあったというのに。風影様の側近であるのにも関わらずなにひとつ見抜けなかったとは。

「騙してた?都合のいい女だ。俺は自分を偽ったつもりはねぇぜ」

一体いつから。一体どうして。ぐるぐると海馬の中を詮索するも浮かんでくるのは無垢な笑顔。いつから、狂ってしまったというのだ。幹部の痛みと大切な人を失ったという事実が頭の中を真っ白に染めていく。

「ああ、そうだ。」
「俺はあんたの、その同情に満ちた視線が死ぬほど嫌いだった」
「まあ、その甘さのお陰で、簡単にここまでこれたわけだが」

淡々と述べられる言葉の羅列に理解が覚束無い。胸ぐらを捕まれ、涙で滲み充血した瞳を無理やり覗きこまれる。形のいい唇が弧を描き、不意にその唇が私のそれへと重ねられた。回らない頭が驚きにより完全に思考停止し、その活動が復活するのを待たずに乾いて切れた下唇に舌がゆっくり這い、私の吐息をも飲み込んでなんの抵抗を示さない舌を十分に弄ぶ。名残惜しげに離された幼い顔が至近距離で心底愉快そうに嘲笑う。

「クク…人形みてえな面してるぜ?」
「…は、…」

声が無意味に頭の中を反響するなか、私はひとつの記憶をぼんやりと思い出していた。それはそれはよく燃えた夕暮れの日で。その小さな手のひらにはかわいらしい砂漠の花がしっかりと握られていて、

『あらきれい。風影様に?』
『…違うよ』

遠い記憶の子どもは、少しだけはにかんで私にそれを差し出したのだ。

『…私に?』
『うん』
『本当?ありがとう!』

思わず抱き締めた小さな存在は答えるようにおずおずと私の首に腕を回し、今にも消えてしまいそうな声でぽつり、呟く。

『…ねえ』
『ん?』
『…風影様もお姉ちゃんも、いつかはいなくなってしまうの?』
『………サソリ』
『………』
『…いなく、ならないよ』

絶対は約束できなかった。いい加減な嘘が通じるほど子どもでもなかった。それでも私は抱き締めた小さな存在の顔を見ることがひたすらに怖くて、ただただ強く抱き締めることしかできなくて。首に回された小さな手のひらが小さく震えていたのを気付かないふりをしていた。



「おっと…そろそろ里の連中が気付く頃か」
「サソリ、」
「そろそろ殺るか」
「ねぇ、サソリ」


ゆっくりと私の首に指が這う。徐々に込められる力にもはやなんの抵抗の力も沸き上がらない。私は大切な人も大切な笑顔も未来もすべてを失った。もうこの世にのうのうと生きていられる理由は冷たく首をなぞる手のひらに奪われたのだから。


「サソリ」

「本当はね、」


「永遠なんて、存在しないんだよ」
























「知ってる」







悲しきローズクォーツの輪廻
101023
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