20100318112138 | ナノ




だるいような重いようなそうでもないようなそんな微睡みから一転、私は自分でも驚くくらいにがばっと飛び起きた。うっかり机の上で眠ったときに身体が安定せずにびくっとなるあれだった。瞳を開けて周りを見渡し、自分のおかれてる状況にさらに目を見開く。ここは、まるで地下牢のように薄暗い。昼なのか夜なのか、時間感覚はまるでなく、おそろしいほどに寒気がするような、そんな部屋だった。そんな人の気配がしない空間のなか耳を澄ますと、微かに息を吐く音と物を削る音が聞こえる。聞きようによってはホラー映画の1シーンのようだった。おそるおそる薄暗い部屋を見渡すと、さまざまな物体でごっちゃになった部屋の片隅に、ガラクタに埋もれた小さな背中を見つけた。サソリだ。見慣れた赤髪に安堵の息を吐き出す。

「サソリー」
「サソリてばー」
「どうして私ここにいるんだろー!」

俺が知るか、とっとと出てけ刺すぞ!とでも言われそうな気がしたけれど、その背中はなにも語らず。きっと彼は集中すると何も手に負えないタイプなんだろう。総シカトされたことは特に気にも止めずに、初めて訪れたサソリの部屋を見渡す。はっきり言ってしまえば、かなり不気味である。たくさんの傀儡が私を死んだ目で見下ろし私を取り囲んでぶら下がっていた。彼の見え隠れする根暗な性格の理由を垣間見たような気がした。

「よくこんなとこで生活出来るね」
「……くくっ」

あ、反応した。今までなんの反応を示さなかった背中が僅かに震える。それにしてもさっきから何を作っているのだろう、私の存在を忘れるくらいに集中するのだから相当お気に入りの材料でも仕入れてきたのだろう。ゴリゴリ、カチャカチャ。部屋に響く無機質な音は、心なしか楽しそうに聞こえる。こうして作業に勤しんでる彼を見てるとまるでプラモデルを組み立ててる子どものようだなとひとりで笑った。後で怒られるだろうなと思いながら近くに転がっていた傀儡を椅子にして腰をおろし周りの棚を眺めていると厳重にしまってある大量の怪しい薬品の数々に感嘆の声を漏らした。

「これだけあれば媚薬のひとつやふたつお手のものですよねサソリさん」
「…もうすぐだぜ」
「えっそれ作ってたの?」

それは興味がありますな、とその背中に近づくと、ふいにだらんと人の腕が目に飛び込んできて、悲鳴をあげた。び、びっくりしたなー!どうやら彼はいかがわしい薬ではなく人傀儡の製作途中にあるらしい。それにしても、こいつはひとりでこんな恐ろしいことをいつもしているのか。どうやって作るのだろう……うん、考えないようにしよう。それを戦力にしているとはいえ、常人には決して出来ないグロテスクな製作過程なのだろうなあ…

「くく、」

それを笑いながらやってのけるこの人はさすがS級犯罪者というか常軌を逸しているというか。

「くく、あはは…」

変態というかなんというか…人傀儡に斬新なシステムでも到来してひとりでウケているのだろうか、と自分でも気になって、グロテスクな映像だと知りつつそれを背中ごしに覗き込み、


絶句した。


彼の人傀儡にしては、めずらしく、それは、女の、死体で、それは、まるで。

「私」

思わず後方に後退り、人形に躓き尻餅をついた。不思議といえば不思議で、納得といえば納得。尻から痛みは伝わってはこない。

「サソ、リ」

その背中は答えるように動き、それ、を抱き抱える。だらんと首がもたげ、私は私を死んだ目で見つめた。彼の腕の中にいるのが仮に私だとするのなら今こうして意思を持って動いてる私はなんだ。私、は。

「はは」

乾いた声は彼の耳に届かない。何故なら私は昨日、こいつに殺されたんだった。どうして。どうして?

「愛してる」

震えた背中が心底幸せそうに呟き、私だった私を抱き締める。ああ、そういうことですか。

「なんで早く言ってくれなかったの」
「くく、」
「これで晴れて両思いだね」

なんだか眠くなってきてしまった。幽霊でも眠いとかあるんだなーと暢気に欠伸まで出てきた。もうすぐ私じゃなくなった私は消えるみたいだけど、少なくとも私だった私は永遠にそこで愛されるんだろうな、と考えたら少し私は私に嫉妬した。私だった私は…もう頭がこんがらがってきたので考えるのをやめた。


「愛してる」
「私もだよ、実は」


彼の腕の中にいる冷たくなった私が、幸せそうな、泣きそうな、そんな微妙な顔で笑っていた。



神様は見えないから
(私があなたたちを祝福してあげましょう、Congratulations!)



101002
企画:私の背骨様へ!

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