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やってしまった。ついにやってしまった。幾度となく一般的に言われる「いけないこと」を積み重ねてきてこうしてS級犯罪者として東奔西走してるわけだがまた新たな罪、いや、許されざる罪を犯してしまった。どこをどう走ったのかわからない、ただ無我夢中に走り抜けた。頭の中が背徳感で埋めつくされる中その合間合間にちらつく邪な感情がやってしまえと命令する。まだ、取り返しはつくというのに。その命令に逆らえずに従順にも私はとうとう狂気にも似た行動を繰り返す。上昇する鼓動、荒くなる息、噛み締めた唇の間から漏れだす笑い。行き着く先は、悦。もう止められない。止められはしない。手にした喜びと幸せを手放したりはしない。その喜びと幸せをぎゅうと抱き締め思いっきり息を吸い込んだ。背徳感と隣合わせの快楽。頭の中に毒のように染み渡る幸福。すき、すき、すき……


「………なにやってるの私!!!」


天界から垂らされた蜘蛛の糸がぷつんと切れた、とはまた違う表現のような気がするが粉々に砕け散った理性が泥酔した頭をぶん殴る。とんでもないことをしてしまった。その腕に抱いてるのは、見慣れた黒と赤の布。重要なのはこれの所有者である。さあ、これは、一体、誰のもの。


「…それ」


心臓を鷲掴みする容赦ない静かな声。私の精神は崖の下へ真っ逆さまに堕ちていく。背後に存在する人物の正体は誰なのか、あまりにも簡単ななぞなぞであった。答えはわかりきってはいるにも関わらず私の首が錆びた鉄のように音を立ててその声の主に振り返ろうとするのは、答えを確かめるためじゃない。例え0%の確率でも、私の頭に思い描く人物ではないということを証明したかったからである。

「──イタチさん」

この腕の中にある装束の、本来の持ち主がそこに無表情で佇んでいた。こいつが呼び寄せたのだろうか。なんにせよ、私の世界がガラガラと終演に向かって崩れていく。終わった。

「その持ってるふ「申し訳ありませんでした!!!」

頭から伝わる鈍い衝撃。瞬間ぐらりと世界が揺らいだが私に残された選択肢はこれしか存在しない。彼の足元に盛大に頭を打ち付けて許しを乞うわけでもなく、ひたすら叫ぶ。ああ、私は今、死を渇望してる。ここが私の死に場所だと神が囁いた。

「……一体どうして」
「すきですどうしようもないくらいにすきなんですすきすぎて夜も眠れない苦しい狂おしい美しい愛していますいや愛してました本当に大好きでした月並みな言葉でしか表現できないのがひどく口惜しいですがあの世で後悔しないために汚らわしき言霊にした身勝手な私を許してくださいいやむしろ殺してください殺してくださいと願うことさえおこがましいですが殺されるなら本望ですさあどうぞ!!!」

あなたに逢えて幸せでした。もうすぐ宙に舞うであろう私の顔は至極幸せそうな顔をしてるに違いないだろう。幾年も胸に秘め続けたこの想いを伝えて死ねるなんて私はとんだ幸福者だ。我が人生に一片の悔いなし。しかし、その人生のタイムリミットは未だ止まらない。髪に、そっとあたたかい何かが触れた。おそるおそるこうべを持ち上げると、そこには、穏やかに微笑む彼。時間さえも見とれるような慈愛に満ちた美しい彼だった。

「…死ぬことはない」
「…、」
「人を想うことは駄目なことではないだろう」
「い、イタチさん…」
「お前の気持ちを知ることができてよかった」
「イダヂ、さん゛…!!」
「その服と共にしっかりお前の気持ちを直接届けてやれ」
「っっはい!!!」







「………え?」



出来心の後始末
(上着がない、と震えていたぞ、鬼鮫)



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