小説 | ナノ



ギイ。本日すべきことも終えたのですっかり就寝モードに突入したぼやけた頭の中に、久しぶりに自分以外の生物が活動する音が聞こえる。生きてたのか。開かないまぶたをぐしぐしとこじ開け耳を済ますと今度は水が流れる音。どうやら入浴してるらしい。風呂場はどう足掻いてもひとつしかないので共有しているが後の消毒行為が半端ない。軽く消毒液一本丸々使用する。その異常な行為にはもう慣れたが前髪の間から覗いた瞳が血走っていたのにはちょっぴり引いた。明日はいよいよ研究会。あの様子じゃ結果的に外に出向かないだろうなと踏んでいる。明日から鳴り続ける固定電話の電話線を抜いておくのが得策だろう。一定に鳴り響く水の音にまぶたがとろんと重くなる。眠りに落ちる前に昔の彼がふと頭の中に浮かんだような気がした。

ガチャ。大分近くで扉が開く音がする。誰だよレディの寝込みを襲うのは。口にしたら多分いや間違いなくひっぱたかれることだろう。なんにせよ寝起きの酷い顔はとてもみせられるものではないので狸寝入りを決め込み布団を頭までかぶり寝返りを打つ。しかしそれを許さないのはあまりにも聞き馴染んだ、声。

「起きろ」
「……なんすか」

自分の寝起きの悪さは異常だと思ってる。大分低いところで鳴った自分の声に自分でも驚く。眠い。

「今から出かける」
「…はあ」
「留守中は誰もあげるなよ」
「…はあ……えっ」

驚いた。睡魔に襲われた頭が一気にクリアになる。驚きのあまり布団からガバッと顔を出すと。



心臓が止まるかと思った。

「ひどく不細工な顔をしている」
「い、い、今、なんて」
「不細工な顔をしている」
「その、前!一番最初!!」
「……出かけてくる?」


整った眉を潜めて非常に不可解な顔をしながら首を傾げて私を見下ろすのは、文字通りえらく整った男の顔だった。

「…どなたでいらっしゃいますか」
「寝惚けるのも大概にしろ」

小馬鹿にした顔も何故だろう、腹が立たない頭があがらない。口がぱくぱくと金魚のように上下に動いた。するりと優雅にマスクを着用し、びしりと決めたスーツを翻し部屋を後にする。





誰だお前。



(忘れてた)
110129


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