小説 | ナノ




そんなこんなで彼とのまっこと奇妙な共同生活が始まったわけだが、ひどい。何がひどいって彼の生活パターンだ。食わないよりは幾分いいが相変わらず食生活はめちゃくちゃ、就寝は常にディスク上。体を侵食する菌を気にする前に自分の体を自ら害していることに気付かない彼に馬鹿という称号を与えよう。口が避けても言えないが。私がここに住むことを自ら提案したのは予想の遥か斜め上をいく出来事だったがたまたま仕事外で私とばったり会うと包み隠さず嫌な顔をされる。長すぎる黒髪でよく見えないがおそらく凄い嫌な顔をされてる。もしかしたらこの生活に先に泣き声をあげるのは私かもしれない。ストレスで禿げてしまいそうだ。その抜けた髪を非常にばっちそうにトングか何かで処理する彼の姿を想像して更に顔の皺が増えたような気がした。

「そういえば」

自分の息がマスクを蒸らす感覚にはもう慣れた。いつか耳たぶが赤くかぶれる日がくるとは思っている。私の声に一瞬だけ手元から視線をこちらに移し、また作業に戻る。1日中薬品とにらめっこして何が楽しいんだろう。

「もう少しで研究会じゃありませんでしたか」

ガシャン。ゴロゴロ。パリン。上からビーカーが彼の指からするりと抜けてディスクに落ちて転がって床に落ちた音である。また私の雑務が増えた。

「確か明後日の」
「行かない」
「…そういうわけにいかないでしょう」
「嫌だ」
「法律上よろしくないことになりますよ」
「死ね」

理不尽だ。僅かに震える指を横目で見て、砕け散った破片を広い集める。この人が割ったガラスの数は余裕で30は越えると思う。

「誰がいくか外なんか」
「怖いんですか」
「ああ、恐ろしい」
「お前はどこぞの自宅警備員か」
「そんなところだろうが」
「威張らないでください」

頭を抱えてズーンとし始めた男の背中にそっと溜め息。引きこもりの息子を持った母の気分だ。

「…私が行けたらいいんですが博士本人じゃないと」
「……」
「こればかりは足掻きようがありませんよ」
「出てけ」
「えっ」
「…すまない。部屋を出てってくれないか」
「……あ、はい」

パタン。驚いた。あんなに落ち着いた、というか紳士的な姿は初めて目にした。部屋の中からは何の音もしない。まさか…死ぬ、なんてことはないだろうけど…彼ならやりかねない。後日彼の安らかな死体なんぞ拝みたくはないけど内心ハラハラしながら様子を伺うことにする。頭のどこかで初めてのおつかいのテーマが愉快に流れた。






彼はどこぞの巨大な赤ん坊のようだ



(おんもにいくと病気うつされるんだぞ)
110130

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -