小説 | ナノ



先程の騒音から一転、夜は静けさを取り戻す。しかし細かく泡立った肌は未だ平面にはならず背筋は冷たいままだった。これからどうなるの私。サソリに言われるままに木片の類いが飛んできたので少し遠くのほうまで歩いてみたものの、歩いた先に何があることやら。しかも何やらさっきの大男が言っていたことを頭の中で復唱する度に頭の中に小さな痛みが走る。あの方って誰。少なくとも私はあんな青い肌した顔の知り合いはいない。人間離れにもほどがある。人間離れといえばついさっきまで同じ学生生活を送っていた幼馴染みだ。爛々と光る瞳、角、紅い着物…。一瞬しか見えなかったけれど操っていた得物は細身の日本刀のようなもの…。大男に比べ遥かに華奢な彼だが、負けるはずはないだろうという自信が私にはあった。…これが何かの撮影なら真っ先に私はあの腹立つ顔を殴りにかかるだろう。

「…あれ」

ぶつくさ冷静にこれまでのあらすじをおさらいしてた頭をふと現実に引き戻す。ウェアイズディス。英語は万年成績2である。たらりと汗が流れ、頭の中でいやいやそれはないよお前嘘だろウーソ☆と私が言っている。右、左、前、後。はい。



……アイアム迷子!!!




「あいつになんの魅力があるってんだ」
「クク…貴方には関係ないことですよ。貴方こそ、何故そんなにあんなただの小娘に執着し使役してるのやら」
「執着…?使役…?ふっざけんな!この俺がなんであんな女に」
「でなければ、恋、ですか?」
「……はあ?お前そんな見た目でそんな気持ち悪いこと言うんじゃねぇよ」
「クク、酔狂なことだ。貴方も」






暗い暗い森の中with地元近辺なのに迷子になる自分。記憶の中で終わってるな、と真顔でサソリが言った。どこをどうしてこんなところにきてしまったんだろう。これは昔から自分の頭の中で成り立つ疑問文である。未だかつて答えは出たことはない。自分の方向音痴さにいい加減嫌気がさす。けれど、全く、全く知らないというわけではない。この森に初めて入った気がしないでもないのだった。記憶よりも曖昧な…夢のような。…夢?

ざわ。

嫌な予感。湿った風が頬を撫で、森はけらけら笑うように揺れる。

「…あ、」

さっきのような異形なんて何処にもいない。物理的な恐怖ではない。何もないはずなのに物に満ち溢れているような、空間。月なんて見えない。何よりも怖い闇。ひとりきり。私は、ずっと前にここにきたことが、ある。


ひた。


「…、…や」


ひた。ひた。
足音が聞こえる


"迎えに来たよ
さあこっちにおいで"


「サソ…、」


ひた。ひたひたひた。


「だれ、か…、たすけ、」






カラン。







「…また、お前か」



101122
魔王:シューベルトが流れた


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