小説 | ナノ




「要するに、この世界には妖怪がうようよいると」
「ああ」
「見える人見えない人がいると」
「ああ」
「私が何もない所でよくこけたり、私が外出しようとドアを開けた瞬間雨が降りだすのもそのせいと」
「いやそれはお前の運」

ついさっきの惨事(もっとも妖怪のほうが思わぬ惨事だろうけれど)から状況を把握しようと先程の質問を繰り返して五回目だ。SFや童話などファンタジーが好きな私がもしサソリと逆の立場なら絶対信じないだろう。リアリストの彼が言うのだから信じる他ない。しかしサソリの口からこんな現実離れした話が聞けるとは…ぷぷ

「…余裕だな」
「え、じゃなんで今まで見えなかったのに突然見えるようになったの?」
「さあな。それは俺も知らん」

あの夢と関係があるのだろうか、いや、あの夢の中の小さい私は、恐らくその妖怪と言われるものが見えていたのだろう

「サソリはなんで見えんの?」
「妖怪が見える人間は…自分が妖怪であるか、或いは」

「もうじき死ぬ奴だ」


ひくっとひゃっくりのように身が凍ばった。び、ビビらせないでくださいよサソリくん。さっきの瞳の色から戻ったサソリのいつもの瞳が私を見つめる。ん、ということはサソリは妖怪…いやいや妖怪よりも恐ろしい奴だよこいつは、なんせこれだけ一緒にいるのに人間じゃないと気付かないなんて私ただの馬鹿じゃん…だとしたら…もうじき死ぬ…ということか?

「え、やだ、サソリ」
「…え」
「サソリが死んだらパソコン壊れた時直す人がいなくなってしまう」
「…(こいつは馬鹿か)」

なんだか呆れられているような安心したような顔で私を見ているサソリが、は、と目を見開き私の腕を掴む。何事かと自分の指を見ると、手の甲からだらだらと出ているではないか、真っ赤な血が。人間というものは自分が怪我をしている、と認識すると途端に痛みが襲いかかるように出来ているらしい

「いたい」
「いつやったんだよ…」
「さっき逃げるときかも」

チッと、私に対して一体何度目であろう舌打ちをかまし、ぶっきらぼうに腕を引っ張られた。え、なんかごめん。

「お前、妖怪にとって特別なんだってよ」
「は、特別?」

意味がわからない、とぼんやりしていると傷口をべろり。は?何やってんのこいつ?は?は!?

「うっひゃあ!何してんのサソリキメェ離せ!」
「うるせぇ」

抵抗するとぐいと到底敵わない力で腕を引かれ、また私の傷口に舌を這わす。本当に意味がわからない、なんだこいつは私のことが好きなのか。ごめん私はアイボくんみたいな人がタイプでして…

「お前を喰うと、いいこと、があるらしい」

指を掴んだまま私を見上げる瞳はいつもと違う綺麗でいて禍々しい色で、血のついた口の端をにやりとあげ、今までみたことのない笑みを浮かべる彼にぞくりと背筋が凍った。

「…なんて、俺が妖怪ならお前みたいなブス食いたいと思わねぇがな」
「や…やめてよねぇ!冗談キツいわ!それに私は超絶美人よ!」
「よくて中の下」

よかった、いつものサソリだ。マジでアイツに食べられるとか…ないわ〜!想像しただけで……ないわ〜!

「なんで私、特別なの?こう、実は巫女の血を継いでるだとか、妖怪を統べる王の娘だとかそんな美味しい設定が」
「死ねばいいと思う」
「実は強大な巫女の生まれ変わりで妖怪は復讐すべく私を狙い」
「死ねばいいと思う」
「実は私はなんでも願いが叶うという宝玉を」
「死ね」
「実は」
「死ね」
「…ですよねー」

全く酷いやつだ、金魚の糞みたいに私を追っかけるほど私のことが心配なくせに☆…それにしても本当になんで昔から妖怪に狙われるんだろ、…ん、昔から?思い出の扉に手をかけた指はまたもや払いのけられた。突如現れた無数の青い火によって。




声涸らし叫ぶ烏の呼ぶ忌事
(闇の夜に鳴かぬ烏の声きけば生まれぬ先の父ぞ恋しき)



(それにしても血を舐めたサソリの顔はドSきわまりなかった)
100824



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