小説 | ナノ





なんてこった。私としたことが、今日見た懐かしい夢に夢中で「天才!野村動物園」を録画し忘れるとはなんたる不覚…!動物にも癒されアイボくんにも癒されナレーションの声にも癒され一石三鳥なこの番組が、土曜枠から平日枠に変わったのはつい最近のこと。故に本日はバイトだというのに録画を忘れてしまっただと…!バイトの時間までぶらぶらと時間を過ごそうと考えていたがこうしちゃいられない!ダッシュで下駄箱に向かうと運がいいのか悪いのか、朝遅刻したことにより悪態を吐かれまくった(私も負けじと言い返したが)サソリと出くわしてしまった。珍しく周りに女の子がいない。

「……」
「……サソ」
「断る」
「え!まだ何も言ってないんだけど」
「どうせくだらねぇ理由で家戻んだろ」
「うっ」

何もかもお見通しという奴か…伊達に十数年幼馴染みやってるわけじゃないな。

「んじゃいいよ。んじゃね」
「ああ」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…なんでついてくるの?」
「あ?家に帰るからだろうが!」

そう言ってのけるサソリにじゃあパシってもいいじゃないかとごねる。口に出したら嫌な顔で笑われそうだから止めた。

「…サソリってさ」
「なんだよ」
「なんだかんだいつも私と一緒にいるよね」
「は?」

まるで金魚の糞だ、という言葉はそっと心の中に閉まっておこう。そう思うほど、腐れ縁なのかなんなのか、朝も夜も思い返せば一緒だ、特に時間が遅い帰り道(これがまた女の子の嫉妬が怖いんだよね)。こっちとしてはそれは助かってるんだけどね。この感謝の気持ちも心の中に閉まっておこう。

ピタ、と足が自ずと制止する。見間違いかと思い、二、三回目を擦ってもそれは、そこにいた。

「どうした?」
「…ねえ、あそこに、何かいるよ、ね」
「ああ?」

隣で彼が目を凝らす先には、どう形容したらいいのだろうか、まさしく、異形、がもぞもぞと電柱の隅に蠢いていた。

「…どこだよ?」
「ねえ、ほら、なんだか、こっちに」

呟いた瞬間、人でも愛くるしい動物でもない何かが、私を見てる…ような気がする。

「…おい、大丈夫か」
「…怖い」

ずるりと電柱の端から飛び出してきたそれは、やはり幽かな足音を立ててこちらに向かってくる。…まるで、あの時森に入る前のように。人間では聞き取れない何かをぼそぼそと呟くその物体に私の本能は逃げろ、と催促する。振り向きサソリの制止も聞かずに走り出した私の前には、顔が、ない、何かが。私は叫ぶべく目を瞑り大きく息を吸い込んだ。

「雑魚は引っ込んでろよ」
「へ?」

しかしその溜めは予想外のヒーローの登場によってあまりにも間抜けな声に変換されてしまった。顔のないそれの顔はめり込んだサソリの足によりさらに異形なものに。こっちのほうが怖い気がする。

「え、さ、サソリさーん?」

怖い顔をしていたサソリははっと目を見開き、ちっと盛大な舌打ちを鳴らした。え、これ私が悪いの?

「お前、さ」
「なん…、!」

罰が悪そうに頭をかくサソリの瞳は、綺麗な綺麗な、金色。




「見えないんじゃなかったのかよ」




目を合わさぬやう足早め
(玉やたがよみぢ我行くおほちたらちたらまたらにこがねちりちり)



(めんどくせぇ)(サソ…!なんで…!ていうかその眼…!何者あんた!)(めんどくせぇ!)
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