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一般常識の枠からこぼれ落ちた時間帯にまたこいつは死にそうな顔で笑いながら一人暮らしの俺の部屋にやってきた。何かを愚痴るわけでもなく嘆くわけでもなくただ俺のソファーに俯せてあーとかうーとか喃語を繰り返しそして暫く経ったあとに漸く口を開いたかと思ったら決まってこう呟く、

「人間なんか大嫌い」
「お前も人間じゃねぇか」
「故に自分も嫌い」
「嫌いだったらテメーが好きな人間んちに自分の暇潰しにこんな迷惑な時間にこねぇだろ」
「嬉しいくせに」
「しねばいいのに」
「やさしいんだね」

定期的に野良猫みたいにやってくるこいつをなんとなく今日ここに訪れることを予想してた自分が気持ち悪い。その予想が的中してしまったことが気持ち悪い。あたかも今まで寝てましたお前マジ常識ねぇと目をこすってみせるも重いまぶたをこじ開けながらこいつを待ってた自分が気持ち悪い。

「サソリ」
「ああ?」
「すきだよ」
「ああ」
「恋とか愛とかそんな規模じゃなくてあなたがとぅきだよ」
「知ってる」

ソファーに顔を押し付けながら呟く聞き慣れた言葉の羅列に適当に相槌を打っておく。

「私、サソリだけがいればいいかな」
「そう」
「でもサソリは私がいなくてもかまわないよね」
「そういうわけでもねぇけど」
「私がいなくてもサソリにはいっぱいいるもんね特に女の子」
「お前めんどくせぇ」
「でも私はサソリしかいらないよ」

ちらりと視線だけこちらに向けて瞳だけで笑ってみせる。溜め息。なにも俺だけがお前を幸せにできるってわけじゃないのに。それがお前の為にならない、てことをこいつはおそらくわかっているのだろう、いつまで経ってもこれ以上を言わない俺にこいつもまた何も追求しない。それでも満たされないんだろう。こいつは本当は俺という人間の首輪に縛られるのを待っている。

「人間なんか大嫌い」
「お前はそうかもしれねぇが人間はお前のことなんて多分どうでもいいよ」
「そうなんだよね」
「そうだよ」
「サソリは?」
「どうでもよかったらこんなワガママ娘家にあげねぇよ」

またこいつはニヤリと笑う。笑う前に一瞬悲しそうな顔をした気がするけれど。

「ワガママなのはわかってるよ」
「自覚あったのか」
「サソリはすきだ、でも人間を許すことはできない」

それでもいい、共に生きようなんて赤獅子に乗って爽やかに言ってやればこいつは救われるのだろうか。こいつの為を思わずに自分の気持ちだけを考えたら「それでもいい」というより「それでいい」と言ってやるのだけれど。

「生憎お前を幸せにできるのは俺じゃねぇよ」

そう言うと、またこの女はニヤリと自分の我が儘を隠した。


「人間なんか大嫌い。サソリ以外の幸せなんかいらない。サソリが好きな人間もいらない。人間なんか、大嫌い」


そう弱々しく呟いた我が儘でかわいい妹を自分のエゴで抱き締めてやれない自分に少し嫌気がさした。



隘路にアイロニー
(愛してるんだよ)



100905
もののけ姫大好きです。女の子の心境は初音ミクの人間なんか大嫌いがイメージソングですたい。タイトルうまいこといってすみません(笑)最後のまさかのオチは実の妹でも妹みたいな存在でも解釈はお好きなように。

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