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あの無表情で有名なイタチさんが、あの冷酷なことに定評のあるイタチさんが、ある日、小さな小さな黒い猫を拾ってきた。任務帰りに気紛れで拾ってきたのだろうか、その猫がイタチさんの元にやってきてから、いつもの堅苦しい顔が幾分和らいでいるように見える。任務以外で彼を見かけるときは常に猫とじゃれあっているようだった。正直間に入りたい。とは口が裂けても言えないことである(きっとその場の空気に耐えられない、私が)。可愛い子猫に対しても、人の血なんて通っているのかどうか知れない彼に対しても、純粋な羨望を抱いているあくる日。

「…、」
「にゃあ」

一人と一匹の幽かな声が聞こえ、開きっぱなしのドアをそっと覗くと、子猫が彼の膝の上で彼の指に対してじゃれていた。対するイタチさんは瞳を細め僅かに口を緩めているという、普段拝むことが出来ない柔らかい表情を垣間見ることができた。

「…」
「にゃあ?」
「…ダン」
「にゃあ!」

可愛い。非常に可愛い。名前つけちゃってる。きっとダンゴのダンに違いない。私が今この手にカメラがあったら間違いなくレンズにおさめていたに違いない。このまま覗き続けるのもなんだか悪いしそろそろ思考が危なくなってきたので引きかえそうと後ろに下がるが、固い、壁のようなものにぶつかる。

「……」
「……」
「…鬼鮫さん」
「…はい?」
「何、してるんですか?」

いやこれはですね、と饒舌に喋る大男とその右手に構えられた物を交互に見て、こうはなりたくないな、と何かがすっと引いた気がした。



「あれ、」

任務のない自由な休日、小さな気配に目を向けると、私の部屋にあの子猫がやってきた。部屋を間違えたのだろうか、子猫は私の顔をじーっと見据えると警戒するように上目遣いで見つめる。

「…」
「…」
「ダン」

試しに彼の愛称で呼んでみるとぴくぴく、と耳を動かしそろりとこちらに近付いてきた。成る程これは可愛い筈だ。怖がらせないように首の下を優しく撫でると気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らす。

「…羨ましいなあ」

ぽつり、呟いた言葉は子猫しか聞いていなかった。無表情な彼にあんな表情をさせるなんて、あんなに優しい声色で名前を呼ばれるなんて。何も知らない子猫は無垢な瞳で首を傾げた。気付けばここ最近頭の中は彼のことばかりだ。これはもしや恋?まさか。叶う見込みのない恋なんて。

「…ここにいたのか」
「え!」

頭の中を占拠していた彼の声が突然リアルに頭の中を占領し、驚きのあまりベッドから転げ落ちた。

「……大丈夫か?」
「はい大丈夫です」

穴があったら入りたいとはこのことを言うんだね!子猫は主を見つけると嬉々として彼の服にしがみつきぶらんとぶら下がる。それを軽々しく抱える彼の姿は優美そのものだ。ああ!いっそのこと猫になりたい!心の中の叫びは彼に届く筈もなく、目的を果たしたその背は遠ざかる。まるで乙女のように心臓がばくばくとうるさい。


「ななし」


そのうるさい心臓も止まるほどの静寂。ついに恋という名の病気は幻聴まで引き起こしてしまったのだろうか、それでも声の元に視線を辿ると、憧れの彼がゆっくりと振り返る。

「こいつを散歩してやってくれないか」
「……はい!」





呼んでほしい
(それだけでまるで生きていていいのだと)



100825
恋を知らない女の子と、この子は猫とあそびたいんだなーって思っている兄さん。久々のほのぼのそしてグダグダですみません…リクエストありがとうございました!

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