! | ナノ



雨が降っていた。鈍色の空から降り注ぐ水滴をただぼうっと見ていた。冷たいのか生暖かいのかもよくわからない水を傘も差さずに雨宿りもせずに浴びていた。ゆらり、風もないのに空気が揺れた。まるで、はじめからそこにあったように、まるで、足元に咲いていた小さな花のように、わたしの隣に彼が居た。顔にかかる美しい黒髪が肌に貼りつくのも厭わずに彼も、ぼうっとそこに座り込んでいた。何を喋るでなく、何をするでもなく、ただぼうっとふたりで雨に濡れていた。何も話すことなどなかった。なかったものだから、ぽつり。
「しにたい」
顔から髪から流れついた雫が口のなかに流れ込んで不快に思った。口を開かなきゃよかった。
「そうか」
鳴り響く小さな雨音以外の音が鼓膜を震わした。どうしようもなく泣きたくなった。急に濡れ続けた身体が震え出して、一気に体温が奪われたような気がした。込み上げる何かを吐き出すまいと必死に唇を噛みしめていた。傘がほしい、傘がほしいとなんとなく思うと、彼の青白い指が私の頭に触れた。とてもやさしかった。雨音が強くなる。ちょっとだけ、声を出して泣いた。



100711

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -