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6月9日
いつもと変わらない日常が始まる。どこからか朝ごはんの温かい香りが漂い町が色づきざわめき出す。とても、とても、穏やかな朝だった。町の喧騒は何故だか今日は遠くに聞こえ、代わりに時計の秒針だけが虚しく響きわたる。指の間をさらさらとこぼれる美しい髪が日の光に反射し、きれい。「幸せ」「幸せだわ」これ以上に美しい朝はもう二度とはこないだろう。


4月9日
とてもきれいな人だな、と思った。そこに存在するだけで周りの空気がガラリと変わるような、そんな雰囲気が素敵だと思った。一体あのきれいな瞳には何がどのように映っているのだろう、私の存在に気付きもせずにどこか遠くを見つめてるその瞳に、図々しくも入り込みたいと思ってしまった。

5月9日
あなたの髪をさらりと撫でる風、あなたが触れるすべてのものが羨ましいと思う。あの人は、いつもひとりだった。ひとりで空を見上げ、ひとりで涙を流していた。きれいな雫がぽろりと落ちた瞬間、時が、止まったような気がした。

6月2日
あなたがすきだ。あなたがすきだ。風の噂でもうすぐあの人の誕生日だということを耳にする。耳にしたところでどうするというのだろう、あの人は私の顔はおろか存在さえも知らないだろう。どうしよう、どうすれば。それでもなんらかの形で伝えたい、生まれてきてくれてありがとう、と。純粋にそう思った。どうか、そんな憂いを帯びた顔をしないでほしい。そんなさみしそうな、あなたがすきだ。

6月5日
あの人が珍しく瞳を優しく細め、とても穏やかな顔で笑っていた。その隣にいるのは、これはまた、美しく微笑む人だった。がらがら。頭の奥底でそんな音が聞こえ、激しく心臓を揺さぶる。やめて。笑わないで。いつものように寂しそうに遠くだけを見つめてよ。幸せを願う反面、黒い感情が津波のように押し寄せ、頭のなかをぐちゃぐちゃに掻き回す。やめて、やめて、止めて。私を。誰か。

6月7日
美人薄命、誰もがこそこそと耳打ちする。かわいそう、誰もが哀れむ顔をする、明日は我が身、なんて誰が思うのだろうか、これが彼女の運命だったんだ、なんてかわいそう。ああ、「かわいそう」という五文字は一体誰に向けた言葉なのだろうか、かわいそう、かわいそう。あの人に?彼女に?答えは決まっていた。

6月8日
誕生日には花を贈ろうと思うの。いつかは錆びゆくシルバーよりも、思い出のなかにずっと咲き続ける花のほうがずっといいと思って。情熱の赤い薔薇よりも、たおやかで可憐なスイトピーよりも、真っ赤に咲き誇るカメリアが素敵。ふいに、首がもげてしまうけれども。あなたの綺麗な黒い髪にはとてもよく映えると思う。待ちくたびれて手遊びに落ちる必要のない花までぽとり、ぽとりと落としてしまった。ああ、喜んでくれるかしら、いつまでこの花は咲くことができるのかしら。湿気を含んだ生ぬるい風が不快に吹き抜け、ふと月明かりに浮かび上がる自分の影に誰かの影が重なる。


「イタチさん」
「怒ってる?」
「ごめんなさい」
「もうすぐ0時を回るわ」
「明日は、なんの日でしょう」
「……私のこと、殺したい?いいよ、別に。私の命なんて、もとから明日に終わる予定だから、でもね、その前に、あなたが欲しいの。どうしてかな、最初は見てるだけでよかったのに。迷惑だよね?わかってる。ごめんね、許してとは言わない。とてつもなく自分勝手なのはわかってる。でも、でもね、」

6月8日23:59:50

「ごめんなさい」

6月8日23:59:52

「わたしは」

6月8日23:59:55

「あなたのことを」

6月8日23:59:59

「愛してる」








「もう、どうにでもしてくれ」








6月9日
いつもと変わらない日常が始まる。どこからか朝ごはんの温かい香りが漂い町が色づきざわめき出す。とても、とても、穏やかな朝だった。町の喧騒は何故だか今日は遠くに聞こえ、代わりに時計の秒針だけが虚しく響きわたる。指の間をさらさらとこぼれる美しい髪が日の光に反射し、きれい。「幸せ」「幸せだわ」これ以上に美しい朝はもうふたりには二度と訪れないのだろう。これからはずっと一緒に眠り続けるのだから。



ときめくわたしの胸は
(もうすぐあなたとお揃いになる)




企画「門出」へ
とんでもないものを作り上げてしまった。どうしてこうなった。何はともあれ、兄さんありがとう!!
100608

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