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うちは始まって以来の天才だとか、うちはの未来はこの子に委ねられているだとか、世間はそんなレッテルをベタベタと貼っているようだけど、私はそんなことはどうでもいい。少なくとも、私の目の前で祖父母父母から代々受け継いだ自慢の甘味を一生懸命口に運ぶこの子はそこら辺の子どもと何ら変わらない、ただの子どもだ。

「新作のクリームとカスタードクリームと黒蜜のスペシャル抹茶白玉あんみつ、おいしい?」


少年はこくん、と首を縦に振って、黙々と甘味を口に運んだ。端からみたらただの無愛想な子ども、しかし私にはわかる、この子は今、無表情なりにとても喜んでいることを。初めて彼がここに訪れたときはそれはもう子どもらしからぬ窮屈そうにかしこまった子どもがきたものだと驚嘆したがこうして甘いものの前では誰しもかわいい子どもに成り代わる。

「…あの、今日こそお代を、」
「いいのいいの!こうして私の新作の犠牲にならせちゃってるし!」

そう言うと少し微妙そうな顔をして不器用に顔を綻ばせた。可愛い。もう少し近所の子どものようにニコニコ笑っていればいいのに。控えめな笑顔にどうしようもなく頬の筋肉を緩ませながらさらさらの髪をくしゃりと撫でる。こんな平和な時間も束の間、きっとお忍びで来ているであろう彼はゆっくりお茶を啜ることなく腰をあげる。ペコリと行儀よく頭を下げて駆けていく小さな背中に自分でもびっくりするくらいの笑顔を向けていた。こうしてたまの小さな訪問者の訪れを私は待ち遠しく感じていた。来るたび来るたび笑顔を見せるようになった彼を人知れず誰よりも心待ちにしていた。そんなある日、

「これはこれは、イタチくんじゃないか、修行のほうは頑張っているかい」
「イタチくんはうちは一族の誇りだよ、うちは一族のために頑張るんだぞ」

店の軒先で一族の人に囲まれた彼が、とても窮屈そうに笑みを浮かべて「ハイ」と頷いていたのを見かけた。いつも美味しそうに団子や和菓子を頬張る彼とは格段大人びてみえ、私の気のせいかもしれないけどなんだかとても苦しそうにみえた。

「イタチくん、お茶にしない?」

名前を呼ばれた少年は僅かに目を見開いて、私に駆け寄る、そしてバフッと私にダイブする。想定外すぎて情けなく尻餅をついてしまった。恥ずかしい、恥ずかしいけどなんだかとても嬉しい。


「団子屋のお姉さん、」
「どうしたの?」
「弟」
「え?」
「俺に弟ができたんだ!」


あんな行儀良くどことなく無表情な彼が自ら飛び込んでくれたこと、初めて自分から教えてくれた自らのこと、なにより初めて見た彼の飛びっきりの笑顔に、何故だか無償に泣きたくなって、彼が困惑してしまわぬようにぎゅ、と小さな身体を抱き締めた。良かったね、良かったね、うん!このしがみついた小さな背中と生まれくる小さな命に、けして不幸など訪れることのないように強く強く願った。




笑ってほしい
(いつもいつでも何があっても)






100503
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