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「先輩」
「先輩てば」
「ねぇ、聞こえてる?」

至近距離で見下ろした端正な顔は驚きも狼狽もせずいつもと変わらない様子で飄々とした笑みを浮かべ呟いた。彼の瞳に映ってる自分は一体どんな顔をしているのだろう、きっと何よりも汚れて疲れて狡い顔をしているに違いない。胸が、苦しい、早く、この痛みに、蓋をしなくては。私の答えを待っているいまだ穏やかな笑みを崩さない唇にもう一度吸い付いた。下唇にペロリと舌を這わせ催促させた彼の舌にそれをゆっくり絡める。後ろめたい、そんな気持ちが甘い筈の口付けをただ苦く不味いものに変える。それでも私は更に彼を求め、彼も私に答えてくれた。綺麗な指が私の髪をさらり、撫でて、ひどくいとおしそうに瞳を細めもう一度先輩、と離れた唇が呼んだ。ずきんと心臓の辺りが軋んだ音がした。


「さ、すけ」
「なあに、先輩」
「すき」
「おれも」
「すき、だけど、」
「いいよ」


言葉の先を遮るように覆い被さった私の身体を抱き締めてくれる腕が痛いほど優しかった。寂しい、愛してほしい、そんな人間特有の無駄な感情が彼の想いを無惨に踏みにじる。ごめんね、ごめんね、そう言いながら彼の首筋や鎖骨に赤い花を散らし、繋がった身体を辿々しく揺らす。彼は、ただ優しい瞳を私に向けるだけで、臆病者で愚かな狡い私を咎めようとも責めようともせずにすき、だいすきと囁く。私もあなたがすきよ、でも一番はあなたじゃないの、私はあの人の一番じゃないの、辛くて仕方ないの、弁解するように飛び出す言葉の羅列はなんて浅はかで自己中心的で、一体どれだけ佐助の心を切り刻んでいるのだろう、私は佐助の優しさにつけ込んだ、最低な女だと言うのに彼は拒絶もせず肯定もせず私の口付けを受け止めてくれる。強い罪悪感を背中に感じながらじわじわと訪れる快感の波に何もかもがぼんやりと霞む、私の下で同じくうっとりと眼を細める彼が見えなくなる。


「先輩、」
「、なに」
「泣きそう、だよ、」



吐息混じりに呟いた彼の指が私の目尻をそっと撫でる。視界がクリアになると同時に頭の中が白く なり、そのまま佐助の身体に倒れ込んだ。泣きそうだよ、と教えてくれた震えるか細い声だけが空っぽの頭のなかに反響した。



ないちゃいなよ



企画:愛すわダーリン様へ
100421

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