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私が今まで生きてきてこれほど長く感じた10分間は他にはない。痛み苦しみ身が裂けるような多種多様な拷問よりも遥かにタチが悪いと思う。そしてその10分間の間で私の心臓は何度鼓動を刻んだのだろう、きっとメトロノームの調節する奴(遊錘というらしい)を一番下まで下げたようなせわしさだったと思う。休憩なんてない、きっと私の心臓は軽く2ヶ月分の働きをしていると思う。随時背中に感じる壁が私の体温で温まっている。動こうにも動けなかった、目の前には彼がいるのだから。彼が私を見つめているのだから。彼が10分前からただただ私を見つめているだけなのだから。

「…」
「…」
「あの」
「…」
「なんです、か」
「…」
「だ、団子なら飛段が食べました」
「…」
「…」
「…」

なんて過酷なにらめっこだ。正直おそろしい、整いすぎてる美貌がおそろしい、その美しい眼差しに10分照らされていながらまだ正気を保っていられる私は勇者だと思う。こうなった原因はサソリさんなのだ、彼が面白がってイタチさんの飲みかけの湯飲みに彼が開発したのだろう極力無味無臭のアルコールを隙をついて注いだらしい(そんなところでS級犯罪者の本気を見せないでほしい)それにうっかり気付かないで飲んでしまったイタチさんはなんの変化もなく平然としてたらしいが無表情で机を叩き割るわ鬼鮫に月読をかけるわで大変なところを運悪く私が通りかかってしまった。なにがなんだかわからないままサソリさんに身元を引き渡され気付いたらイタチさんに腕を引かれ連行された場所はイタチさんの部屋。ドアが閉まる瞬間サソリさんの笑いを堪えてる顔が垣間見えた。明日サソリさんのかわいい傀儡を3体ほど壊すことにしよう。無論、生きて帰れたら、の話だが。シチュエーション的には凄く、物凄く美味しい、だがしかし美味しいだとか美味しくないだとか言える場合ではない。未だただの無表情で私の瞳を覗き込む彼に私は恐怖を覚えている。いつ月読にかけられるかという恐怖を。

「イ、イタチさん…」
「…」
「ほら、私なんかより、もっと綺麗な人を見つめたほうがいいですよ、例えば鏡とか」
「…」
「(…本当にどうしよう)」

まさに一触即発、何が起こるかわからない。慎重にあれこれと考えていると、一瞬、彼の身体が動いたかと思ったら世界が、ぐるりと反転する。一瞬何が起きたかわからずに呆けていると彼の綺麗な唇が綺麗に弧を描く。あれ、これ鬼畜な人がよくする顔だ。

「…ななし」

肌が一瞬にしてぞくりと泡立つ。彼の唇から漸く発せられた声はいつもよりも低く、そして妖艶だった。今の状況をやっとのことで飲み込むと一気に顔に熱が集中する。それをイタチさんは見逃さずにくく、と喉の奥で笑ったあと私の首元に顔を埋め耳元でもう一度ゆっくりと私の名を囁いた。鳥肌の上にまたさらに鳥肌が、得体のしれない感情にじわりと視界が霞んだ。

「イイイイタチさん何を」

蚊の鳴くような声で訪ねると彼は私を至近距離で見下ろしてまたゆっくりと瞳を歪めた。ヤバい。本能的に逃げようとする体は想像よりも遥かに強い力でいとも簡単に押さえつけられる。美しい美しいと思っていたがやはり男というものには華奢に見えても全く力が及ばなかった。それでも無駄な抵抗を続けていると不意に耳に吐息をかけられ全ての力を奪われた。

「…や、イタチさん、相手は私ですよ、私なんですよ!?」
「それで?」
「いやいやいや!」

酒と一緒に変な薬でも盛られたんじゃないだろうか、いつもの彼とはまるで違う、それとも心の底にある彼の本性なのだろうか、漫画のように眼をぐるぐると回していると耳から全身にびり、と走り抜ける快感、…舐められ、た?

「…っ!…っ!!」

本気でまずい。精一杯身体を押し退けようとするがお構いなしに耳を愛撫するものだから力が出てくれない。耳から直接的に脳を刺激し続ける粘着音に抵抗する気力さえ飲み込まれてしまった。おもむろに顔を上げた彼の顔は月の光に照らされ恐ろしいほどに美しかった。徐々に近付く唇にもうどうにでもなってしまえ、むしろ、どうにかしてほしい、と瞳をぎゅっと瞑った。




「……」
「…?」
「…………すー…」







王道
(取り敢えずサソリさんを殴りにいこうと思った)





100404
私は彼に耳元で囁かれたら100%気絶する自信があります(いらん補足)

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