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草木も眠る午前2時。創作活動に更けるなか徐々に重くなる瞼に喝を入れながら筆を進めているとマナーモードにし忘れた携帯電話がせわしく鳴り響いた。蜘蛛の糸のように細い集中の糸がぷつんと切れ、舌打ちひとつ鳴らし携帯をソファーにぽんと投げつけた。再び机に向かおうとするが未だ携帯のスピーカーを震わすロック。完璧にやる気を無くし軽く周りを片付けだらだらと携帯のもとに向かった。一度は止んだと思った着うたがまたもやループされる。携帯を開けば見慣れた幼馴染みの名前。

「もしもし?」
「ちょ、なんで出ないの」
「お前…何時だと思ってんだ」
「マジヤバい」

こそこそ、とスピーカー越しに聞こえる声は取り敢えず只事ではないようだった。訝しげに眉を潜め、此方も知らずと声のトーンを落とし訪ねる。

「どうした?」
「取り敢えずヤバい。どのくらいヤバいかっていうと今から一時間前くらいから身動きひとつ出来ないくらいヤバい」
「今どこにいる」
「私の部屋。取り敢えず窓の鍵開けとくからそこから来てお願い!」

そんな無茶な、と一瞬薄情な考えが頭を過ったが気付けば玄関に向かって靴を取ってきて出掛ける準備をしている辺り自分は幼馴染みのことが心配なのだろう。自室の窓から屋根を伝って割と近い幼馴染みの家へと向かう。端から見たら怪しさ満点である。月明かりの下なるべく足音をたてないように歩を進め目的地に到着すると本来明かりが点いてるはずの幼馴染みの部屋が真っ暗なことに気付き、不審に思いながら極力慎重に窓を開けた。

「着いたぞ」

真っ暗な部屋の中声をかけると返ってきたのは静寂ばかり。段々本気で心配になってきて焦る気持ちを落ち着かせながら部屋に入ると、異常に膨らんだベッドを発見し忍び足で向かい、恐る恐る布団に手をかけた。

「きゃああ!」
「っ!?」

布団にくるまってたのは予想通り幼馴染みだったが顔を見て叫ばれることは予想外だった。一瞬何が起きたかわからずに呆けているとぐい、とベッドの中に引きずりこまれた。

「、オイ!?」
「しー!静かにして!」

事の展開に着いていけずに戸惑っていると布団の中で幼馴染みである女が手を合わせて心底安心したように息を吐いた。

「ありがとサソリ!来ないかと思った!」
「一体何があったんだよ…!?」

安心したように笑顔を浮かべたかと思ったら再びその瞳に恐怖が宿りしばらく沈黙したあと意を決したように神妙に語りだした。

「あのね…」
「……」
「タンスの中になんかいる」
「………は?」
「人間でも生き物でもない破滅がそこにはいるんだってば!」

思考停止した頭の中に一瞬猩々逹が横切ったが女はさぞ恐ろしそうに真顔で言ってる辺りタンスの中には本当に破滅がいるらしい。急に緊張の糸がほぐれて呆れのあまり言葉を失った。

「…おまえ」
「な、本当だって!さっきからコンコンコンコンって聞こえるの!嘘じゃないっていやマジで!」

必死に俺の腕を掴んで力説してくる瞳は微塵も嘘を吐いてるようには見えなかった。作品製作を邪魔されたことの怒りや呆れなど通り越してなんだかこの女が無性に愛しくなってきた。

「…そいつはヤベェな、下手すりゃタンスの中に引きずりこまれるかもしれねぇ」
「無理無理マジ無理どうしようサソリ、明日からタンス開けられない、ヤバい私まだ死にたくない」
「取り敢えずこういう時は何もしないでじっとしてたほうがいい、あと布団から足は出さないほうがいいぜ、あと、幽霊の類は眼が合ったらお仕舞いだ、だから目ェ瞑ってろ」
「わ、わかった!」

何の疑いもなく俺の言葉を鵜呑みして、ぎゅっと瞼を閉じて無意識に体をぴとっと密着させてくる女に心底笑いが込み上げてきた。「これで大丈夫かな?私明日も朝日拝める!?」と訪ねてくる無防備な唇に警告のつもりでなんの突拍子もなく、ちゅ、と口付けた。何が起きたかわからないと言いたいようにぽかんと見詰めてくる瞳に最大限の嘲笑の顔を向けてやった。あと3秒もすれば夜分にも関わらず盛大にやかましくなるだろうからその前に再び口を塞いでしまおう。





おばけなんてないさ
(本当に怖いのは人間だぜ)


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