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どうしてこうなった。今自分が置かれてる状況に私はただひたすら慌てふためいていた。頭のなかが小宇宙なせいか自分の顔がまるで真っ赤に凍りついたかのように不自然に固まって恐ろしいことになっているという事実にはまだ気付かない。幾分息を整えてから盗みみるように視線を下ろすと映るは私の足をとって跪く麗人(といっても彼は男だが)。頭のなかは再び宇宙に不時着した。説明しよう!時間を遡ること数分前、私は伸びて格好が悪くなった自分の爪にペティキュアを塗ってみようと試みる。そして自分のS級的な不器用さに絶望する。そこで鬼鮫さんですよ、と鬼鮫がいる部屋の扉を開けた。はずだった。

「足塗ってー鬼さ……」
「……」

殺される。ただ、そう思った。目の前に飛び込んで来たのは並外れな厳つい顔ではなく、世界中の美を集めたかのような文字通り並外れな美しい顔だった。うちはイタチ。私が最も憧れる方であり最も苦手な方である。

「…あ、すみません間違えま」
「そこに座れ」
「……はい」

静かに、だが私の拒否権を剥奪して呟く。私が苦手とする理由はここにある。デイダラや飛段はいい。考えていることが手にとるようにわかるから。だがしかし彼の頭の中はこれっぽっちも読めない。その無表情からも気持ちや感情が微塵も感じられない。それなのに、いやそれだからこそ彼のぽつりぽつりと呟く言葉に鉛のような重さを感じるのだろう。初めてこの組織に入ったとき、この人がここのリーダーだと直感した(そして彼が男だと気付いたのはそれから一ヵ月先のことである)。そんなことは扨置き、私は彼に指定された椅子に座っているわけだが私はこれからどうなってしまうのだろう。ノックもしないで部屋に入ったことが彼の癪に触ったのだろうか、いや、彼のものだとは露知らずどうせデイダラのだと思って腹にしまいこんだプリンに気付いたのだろうか、どちらにせよ私は噂の月読とやらをされるらしい。鬼鮫いわくあれほど恐ろしい術はないと畏怖されるあの月読だ。ああ、私終了のお知らせです。

「出せ」
「へ?」
「俺が塗ろう」

彼の単語が理解出来なかった。それはもう間抜けな顔をしているであろう私を真直ぐ見詰めるイタチさん(ま、眩しい…)。状況を飲み込めないでいる私の手の中から優雅な仕草でペティキュアを奪い取る。…え、塗るって…え!

「いやいやいや滅相もございませんよ!私なんかの汚らわしい足を晒すわけにはいきませんから!マジで!」
「それにしても酷い有様だ」

私の必死の抵抗を華麗に無視し少し口の端を上げて私の言葉通り酷い有様の親指の爪を指差す。一気に顔に熱が集結する。確かにここで部屋を出て万が一廊下でサソリなんかに出くわしたら盛大に鼻で笑われるだろう。そう考えて私は全ての抵抗をやめ大人しく彼に塗ってもらうことにする。そして現在に至るのだが。

非常に緊張する。心臓が爆発してしまいそう。遠くで見てるだけでよかった、のに。私がこの人を苦手とする理由は上に同じで、憧れる理由は彼の存在そのものだ。その華奢な身体からオーラに至るまで。一人の人としてではなく飛段でいうジャシン様のようなノリで尊敬してた。そんなお人を跪かせてる私って一体。

「あの…本当すみません」
「別にかまわない」

そんな私の気持ちなどお構いなしに黙々と足の爪を漆黒のペティキュアで塗りつぶしていく。思えば彼とまともに会話したのはこれで初めてだった。想像していたよりも、ずっとずっと優しい声だった。

「…私、あなたのこと勘違いしてたようです」
「どんな風に?」
「…もっと…あの、冷酷非道かと…あ、いや、いい意味で!」

そう慌てて付け加え、冷酷非道にいい意味ってあるのだろうか、と自分の頭のなかで突っ込みを入れて再び赤面する。彼は綺麗に瞳を細めて笑った。心臓が緊張とはまた別の方向に飛び跳ねた。

「お前は割とそのままだな」
「え、なにがですか」
「可愛い」
「……は」

そのままの意味で、と付け加え、いつの間に塗り終えたのだろう私の漆黒の爪に、ふ、と息を吹き掛けた。




愛しさを掻き集めたら
(▼おめでとう!尊敬は甘酸っぱい恋に進化した!)



企画:片恋ウイルス様へ!
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