! | ナノ




静まり返った真夜中、たまたま通り掛かった部屋の中からがしゃんと派手な音が聞こえた。寝相が悪いにしてもタチが悪いな、と僅かな隙間から部屋の中を覗き見ると、この部屋の主である新入りが死にたい、と散乱する部屋の中心でうわ言のように繰り返し呟いていた。最近この組織にやってきた彼は13歳にしては気丈でそれでいて何か悟っているような子ども(と表記するのには少々彼は大人びている)だなとは思っていたが、やはり年相応の精神年齢なのだろうか。一少年のヒステリック等ほっとけばいいものを私は多少の好奇心を抱えその部屋に足を踏み入れていた。足下に散らばる硝子の破片や花瓶だったものに気をつけて未だぶつぶつと何かを呟いている彼のもとに歩み寄れば、彼は私の気配にさほど驚いた様子もなく、力なく瞳だけをこちらに向けただけだった。

「どうしたの」
「………」

こんなくだらないことを問い掛けるだなんて野暮だったかと思ったが、最初から私の言葉なんて耳に届いてないのだろう、月明りだけの朧気な視界のなか、僅かに確認できる無気力な瞳に少しだけぞっとした。子どもがそんな眼をするには少しばかり早い気がする。無意識か故意かどうかは定かではないが、噛み締めた唇からは赤いものが滴っている。

「あなたは俺を消せますか」
「、…」

その赤い唇から忽然と飛び出した言葉に今度は私が押し黙る番だった。僅かに上目使いで見上げる瞳に冗談や懇願等の色は含まれておらず、むしろ期待、あるいは試すような色が垣間見える。消す、とはどういうことだろうか、暫く考えたあと特に意味もなく彼の首に腕を伸ばした。彼は黙って私の顔を見つめる。女の私でも簡単に折れてしまいそうな細い首だ。

「俺は、まだ死ねないんです」
「矛盾してるね」

その首に爪を立ててみても、彼は猫のように目を細めるだけで私の腕を振りほどこうとしない。なんだか面倒臭い死にたがりだな、と思った。爪を立てたまま、ぐ、と力を込めてみても変に毅然とした態度は変わらず、僅かに薄い笑みさえ浮かべてる。少し気味が悪いと思うと同時に私は綺麗な奴だな、と頭の隅で呑気なことを考えた。

「あんたってMなの?」
「どうでしょうね」
「ねぇ、疲れた」
「…飽き症な方だ」

指を緩めるもやはり彼の表情は相変わらず変わらないままである。私の握力が弱くなったのかと心配したがうっすらと彼の首は鬱血していた。

「…生意気」
「すみません」
「どうして欲しいの」
「……」

少し黙ったあと彼はどうぞ勝手に、無理言ってすみません、と私への興味が失せたかのように視線を爛々と輝く月に移した。私自身もどうもしようとしなかったし、彼が自殺しようが私に殺して欲しいと頼もうがどうでもよかった。ただ、その無表情がどう崩れるのかには単純に興味があった(部屋に入ろうとしたきっかけは彼が泣いてると思ったからだ)(私は幾分意地が悪いのだろうか)。深い意味はなかった。彼の唇の端に滴る血液に口付けそのまま唇をぺろりと舐めた。そのまま至近距離でほんの少しだけ狼狽した瞳を見つめ、もう一度口付けた。無防備な唇の間を割って舌をゆっくり滑り込ませる。年下相手に盛っている女だと軽蔑しているだろうか、そんなことを考えているとぎこちなく彼が答え、僅かに目を見張る。私は軽く彼を後方に押し倒し出来るだけ優しく深く口付けた。少しだけ血の味がした。

「…嫌?」

見下ろした彼の瞳は相変わらず私をちゃんと映しているのかどうか不安になったが、先程とは明らかに違う表情をみせた。彼は、笑った。今にも泣きだしてしまいそうに。答えの変わりに私の身体を引き寄せ首に腕を回して自ら唇を重ね合わす。彼は静かにどうしようもなく狂ってしまったのだ。そんな顔をするなら偽善でも同情でもいっそのこと殺してあげたかった。不器用に絡み合う舌にわざと歯を立てると口内に広がる血の味。鈍い痛みに僅かに眉を潜める死にたがりの彼を私はひどく愛おしいと思ってしまった。





「消えてしまえあなたなんて」
(そういって君は背に腕を回す)



企画:狂気様へ!
090207

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -