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「ねーイタチ」
「なんですか」
「私に月読かけてよ」
「…今からあなたは72時間鬼鮫の姿になって往来を歩き回る…」
「ちょっ、勘弁!!」
「冗談ですよ」
「(わかりにくっ!)えーと、月読ってイタチの思った通りの世界に引きずりこませることが出来るんだよね?」
「そうですが」
「なら、こう、24時間寝続けられるーとか72時間温泉旅行を満喫!とか出来るわけだよね?」
「出来ないことはないですが」
「じゃあ私にそんな楽しい感じの月読かけてよ!」
「嫌です疲れます怠いです」
「そこをなんとかー!」
「…はあ」





そう溜め息を零しながら、彼はちょっと苦い顔で笑った。この組織での私の後輩である彼(もっとも実力的には一生叶わないだろう)が、こうして他愛のない会話を交わすようになったのはつい最近のことである。それがほんのり幸せで、本当はそんな楽しい幻術なんて必要なかった。ただ、いつもどこか遠くを見ているその綺麗な赤い瞳に真直ぐに見つめられたいだけだったのかもしれない。他人に冷たそうでいて、本当はすごく優しい顔でその赤い眼を細める彼が好きだった。そう、好きだったんだ。しかし今はその瞳は静かに私を見下ろしている。雨のせいなのかはたまた痛みや涙かなんなのかは至極どうでもいいことだが視界がぼんやりと霞む。霞む中で異様に赤だけが静かにそこに浮かぶ。きれいないろだ。


「…リーダー、には、ごめんなさい、と伝えとい、て」


あはは、と笑ったついでに血液が口の中から勢いよく溢れ出てきた。この鉄の味はさいごまで好きになれなかった。S級犯罪者、そんな称号がちょっとかっこよくて気に入ってたが、地に這いつくばるこの姿はあまりにも無様だ。そしてその姿は正直一番彼に見られたくない。さっさとくたばってくれ自分。


「あー…きっと、私は、地獄行きだな、いっぱい、殺してきた、し…しょうがない、か」


この恥ずかしさを誤魔化すために饒舌に喋ろうとするがむせ返る血の味と患部の痛みでうまく言葉が出ない。大好きだった瞳が今は、散々好き勝手やってきた私を咎め、憐れんでいるようで苦しい。今までへらへらと笑っていた表情がついに崩れるのを感じた。


「…お願い、もう、行っ、て。どうせ私死ぬ、から。これ以上、こんな恥ずかしい姿…は」


ふいに影が落ち、状況を把握する前に自分の身体は強く抱き締められていた。


「…、痛、い…」
「すみません」
「…もしか、して、イタチ、私のこと好きだった、の?…なんて、」
「…そうだ、と言ったら?」
「は、は…自慢、する」
「…あなたって人は」
「…私は、すき、だった、よ」
「……」
「すきだった、」
「     」





耳が遠のき、世界は無音になる。身体の力や感覚が失われていくなか、その瞳だけは私を捕らえていた。やっぱり綺麗だ。重い瞼によって幕が閉じられる瞬間、彼がゆっくり微笑んだ、気がした。





世界が終わる一秒前に、
(永い夢をみた)(空が花が風があってそして)(あなたがいた)





100117

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