小噺(inzm)



(うみなり:和巳と夢主さんお借りしてSSSのつもりだった)
中途
時間軸ガン無視捏造乱舞




*恋人の日、でした


 きらきらと、網膜を灼くような光を幻視て和巳は瞼を閉じた。きゃらきゃらと鈴を転がす音で語るは、想いを寄せるいとしい男の話。恋するをとめというやつは、何だってこう輝いているのだろうね。奇しくもこの場にいる四人の中で、和巳を除く三人がそうだなんて……何処か作為的ですらある。そういった話なら、リカとの方が盛り上がるだろうに……嘗ての仲間の姿が過ぎる。思い思いに語る(半ば惚気大会と化していて、実に混沌としている)彼女らに曖昧に笑んで相槌を打つのがやっとである和巳は、内心でくちびるを尖らせる。
 恋人の日、らしい。やたら博識な誰かさんによると、縁結びの成人の命日にまつわる日だという、風習として恋人同士が写真立てに写真を入れて交換しあう、とも……。半歩下がって後ろを歩く和巳は、視界の端を彩る小さな紙袋を見咎め紫紺の眸を細める。恐らく、写真立てが入っているであろうゆらゆら揺れるその数は二つ、今のところ意中の人とオツキアイまでこぎついているのは、ピンと伸ばした背筋までもがうつくしい六連昴と、その髪のようにやわらかな色の笑顔を振りまく北十字翔、この二人だ。

「宇美ちゃんは鬼道に渡さないの?」

 ニヤニヤ、至極楽しそうにくちびるを三日月に模した昴が言う。問われた方…生来のいろを覆い隠した少女、残る一人の影山宇美は目元に朱を染め盛大に狼狽えた。可愛らしい、が、それ故に昴にからかわれるのだ。

「えっ! あ……だって、その…」

 もごもごと口の中で言葉を咀嚼する宇美に、ちょっかいを出した昴までもが苦笑する。端から見れば両想いであるのに、なかなか結ばれない彼女たちには何とももどかしいものがある。ばちん、と背中を叩いてつんのめった宇美に艶やかなまでに昴はわらう。

「さっさとくっついちゃいなさいよ、あなたたち」
「そうそう、見てるこっちがもどかしくなっちゃう!」

 便乗する翔と変わらぬ笑みの昴、二人を扱いかねて宇美は縋るように視線を彷徨わせた。生来のいろを押し殺した眸は、けれど光をたたえて揺れている……頼りなげに、しかし確固とした自我を持って。紅と紺、対象的なオッドアイと垣間結びついた見えぬ糸を容易く断ち切り、和巳はどこ吹く風。宇美には悪いが、こういう時は見ているに限るのだ、色恋沙汰なら殊更に。
 薄情者、と罵る眸から視線を泳がせれば、次にぶつかったのは星を内包した浅葱色。ニンマリと笑みを掃いていたくちびるが更につり上がる。しまったなァと嘆息する間もなく、せめてもの抵抗に眸を伏せるうちに昴はからかいの標的を和巳へとスイッチさせた。

「さっきからだんまりの和巳ちゃんは、誰かに渡す予定はあるのかしら?」
「知ってるくせに、誰もいやしないよ」

 は、と吐き出す呼気で覆い隠す哂いを見透かしたように、昴はわざとらしく首を傾げて眸を丸くする。

「まさか」
「えーっ、だって、嘘でしょ?」
「いない、の?」

 三者三様に……しかし、揃って否と返されて和巳は眉を寄せる。アウェイもいいところである、「いないよ」と返したきり、むっすり黙りこくった本人を余所に、いくらかトーンアップした声は宙空を飛び交う。

「ツマラナいわねぇ。どうせなんだから、フィディオあたりに渡してあげればいいじゃない」
「うそ、士郎くんじゃないの!?」
「え、私、立向居くんだと思ってた」

 何を言えどもひたすらに我関せずを貫く和巳から、ようよう興味の矛先が逸れる頃。相手が“いる”だとか“いない”だとか、押し問答が昴の零した名前をきっかけに“誰に”と相手を問い詰めるものへと変化した。興味津々だと言葉よりも雄弁に語る三対の眸を見やり、嘆息こそすれど口を開くつもりにもなれない和巳である。
 暖簾に腕押し。最早笑みにすらなりきれないものを貼り付けたまま緩慢に目を細めるのみの和巳に根負けしたらしく、シアンの髪を揺らし昴が肩を竦めた。翔も宇美も、眸の奥に好奇心を覗かせつつもとうとう問うのを止めた。安堵と共に眉間の皺をほぐす和巳に思いもよらぬ一言。

「別に、諦めたわけじゃあないのよ?」

 勘弁しておくれ、と泣き言を吐く和巳の表情はけして憂鬱のみに占められてはいない。跳ね上がる声の調子に耳を傾けながら頬をゆるめる、偶にはこういう日もいいものかしら。中途半端に渋面の和巳を取り囲むように巻き上がる笑い声に溶けるように、ひっそりと洩らした声は滲んで消えた。






不完全燃焼。着地点を見失いました、何したかったの。捏造ばっかり、みんな素敵なキャラクタですがむつかしいですね、実にすみません……。ツイッターで呟きましたが昴ちゃんに詰られたいです。こっそり十年後設定でそんな話考えてます。



中途半端に、

「驚いた、まだ落ち着いていなかったのね」
「う、ん……まぁね。昴は変わらず綺麗だね、幸せそうでよかった」
「私、悪女だってよく言われるけれど……あなたの方がよっぽど悪い女だわ」
「―――…そう。そう、かもね」
「あら、否定しないのね。意気地なしなアイツたちもどうかと思うけど、あなたのその何もかも享受するみたいな姿勢、私だいきらいなの」
「わたしはその、昴の思ったことを相手に伝えてしまう奔放さがすきだよ」
「ふふ、ありがとう」





2012/06/13 23:49






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